畑のはしにある、お茶の木を発見

公開日:2023年1月29日 更新日:

子どもの頃から日本茶をよく飲んでいました。当時は、美味いお茶と不味いお茶の差は歴然としていた感じです、一口飲んで高いお茶か安いお茶かすぐにわかりました。「今日のお茶はいいやつだ」なんて言いながら飲んでいたわけで小生意気なガキだったに違いありません。

手づくりのお茶をつくる、お茶の栽培
畑のはしにある、お茶の木を発見

家でお茶をつくっていた

子供の頃お茶好きどころか、手作り茶の手伝いもしてました。家には、父親がホイロまで自作してお茶づくりができるようにしてました。自分では作らないので摘んでもいいと許可をもらっているような畑に時期になれば繰り出して父親と一緒にお茶摘みです。本格的な販売とまではいかないが、日ごろお世話になっている人に配るくらいの量は十分作っていたようです。味は素人のつくるものなのでそれなりだったような・・・。つくり方を覚えているはずもなく、言われたことをやっていたのみ、ホイロの上で茶をもむのは熱かったな~ ぐらいの記憶です。

今も村のいたるところに放置されたようなお茶の木があります。そういうものなんかも利用して、お茶づくりをのちのち自分で手掛けてみようと思ってました。のちのちでしたが、今年から新たな畑を借りところの端っこのほうにお茶の木があるのではありませんか!! 

見逃すわけにはいきません。

たしか3年ほど前の年に南牧村でお茶づくりに新たに取り組みだした女性のところに、お茶摘みの手伝い、いや手伝いというかどういう風にやっているのか見に行ったことがあります。「1芯2葉で摘むんですよー」とか教わりましたが、チンプンカンプンで帰ってきました。ちょっとはつくり方なんか調べてから聞きに行かないと言ってることの意味がわからないな。

『手づくりのお茶を楽しむ』(山背古道お茶探検隊・編、文葉社、2005年)『おいしい<日本茶>がのみたい』(波多野公介・著、PHP新書、2002年)を読んでみました。

『手づくりのお茶を楽しむ』は、小さくてもまずは自分で手掛けたいような人にはピッタリの本です。宇治茶の名産地京都にある古道、山背古道に残る廃茶園を再生した「山背古道お茶探検隊」の活動と、家庭で楽しむお茶づくりを紹介しています。「山背」を「やましろ」と読める人はかなりの歴史好きす。それはさておき、この本で、まずは放置されていたお茶の木の台刈り作業を6月から始めればいいんだと見通しを示してもらえました。お茶の木の管理も含めてお茶づくりの大体の流れが分かりました。

お茶は不味くなったのか

『おいしい<日本茶>がのみたい』には、小さい茶園を成り立たせるための方向性を示唆しているように私は受け取りました。

おいしいお茶がのみたいといことは、現状の大部分は不味いお茶だということです。

保存の方法が緩かった昔は、どんなに美味しかった新茶でも夏を越えると古茶のようにまずくなってしまったようです。

「冷蔵や封入の技術が格段に進んで前年の古いお茶もそうまずくはならない。それだけ新茶が新鮮さを失うことになった」と茶商の言葉を紹介しています。でも、新茶そのものが不味くなったのでは? ということから本書は始まります。

不味いお茶は何かというと「やぶきたの深蒸し茶」です。著者流の表現だと、風味もないドロッとしたお茶。

たしかに私にも思いあたる節があります。いつの頃からか午前中にしか日本茶を飲まなくなりました。午後には飲む気があまりしない。わが家が「やぶきたの深蒸し茶」に占拠されたことが原因だったのか、と。

やぶきたは茶の木の品種、深蒸しは製茶法の一つです。

農林⽔産省調べ(令和3年度)では、やぶきたが全国で67.6%を占めています。主要産地で高いのが静岡の89.9%、低いのが鹿児島の31.8です。やぶきたが全国で70%を超えるときもあったようなので少し下がってはきているようです。

やぶきたが、静岡県在来種の実生中から選抜して農林水産省の登録品種になったのが1953年です。実生(みしょう)は種から育てたということです。私が生まれた1967年、やぶきたを含めた登録品種の茶園は、16.1%だったのが、どんどん増えていったわけです。

そうか、私が子供の頃飲んでいたお茶は、ドロッとした一辺倒でなくもっとバラエティーにとんでいたに違いありません。

やぶきたの栽培が広まる前は、実生から育てた在来種の栽培が多く一般的でした。種から栽培したものは性質が違ってくるのでいろいろな面でバラバラになっていきます。やぶきたが品種登録され、国が栽培を推奨する品種へとなったことで挿木での栽培が拡大していきました。挿木なら同じ性質なので管理も楽ちんです。生産性の高い安定した品種であったということも広がる要因でしょう。

『おいしい<日本茶>がのみたい』では、やぶきた臭という言い方もされていますが、うまく栽培すればこの臭さもないので、やぶきた品種だから問題があるとまでは言い切っていません。品種の能力を最大限に引き出すこともできるかもしれないと一筋の希望は見ています。が、深蒸しについてはあまり希望も見ていません。たしかに広まるにはそれなりの理由はあるわけです。苦み渋みがなくせる、カルキ臭を抑える、お湯の温度も急須の浸出時間もきにしなくていい、煎はきく、といったことです。

上質のお茶は石にはえる

もちろん、美味い、不味い、好き嫌いは、人それぞれ状況もそれぞれなので、そうだったんですね、という類の本です。

しかし私は本書に光輝く個所を見つけてしまいました。うまいお茶はどういう土地が適しているのかのところの記述にです。

本来、お茶は山峡のもので、坦々たる平野部のものではない。茶聖と言われる中国の陸羽が八世紀に著した『茶経』の中で、
「茶の上質なものは石に生え、中質は石まじり、下質は土」

子どもの頃、遊び人の長老が「ここの土地のお茶は最高なものができるのだ」といっていたのを覚えていますが、まんざらでもなかったということか。ここの村の土地は硬い岩盤の上にあって、畑と言えば小石まじり砂利交じりも多いところです。これじゃーろくなもんができねー、なんて声もチラホラ。

さらに、

一般的に薫り高い茶の産地は緑茶も紅茶もともに冷涼の地域である。昼夜の温暖さが大きい山間の渓谷の周辺だ。朝夕に霧が沸き起こり、これが天然のシャドーとなるようなところである。

小豆のことを思い出しました。小豆も同じようなところでなかったか。昨年、上毛新聞に「和菓子の源流へ」という連載コラムがありました。奈良にある和菓子の樫舎[かしや]主人・喜多誠一郎氏が書いたものです。その中で、いい味をもたらすところは谷であるが、そのなかでも特別な味をもたらすところには共通の特徴があるとして「夏の夕暮れ時、山の上からひんやりとした涼風が吹き下ろしたら、そこは特別な産地です」。

そういえば、南牧はいいお茶ができるんだと言っていた長老、南牧の小豆の味がいいのにも目をつけて、新宿の老舗和菓子屋に南牧産小豆の味をみてもらったら「これはいいものだ」と太鼓判をおされ、南牧の小豆の流通に力を入れた時期があったと聞いています。

畑のすみで茶の木を見つける

『手づくりのお茶を楽しむ』で、番茶の定義は確立されていなくて「地方茶」あるいは「家庭用の普段使いのお茶」を指しているとあったので、これまで番茶がよくわからなかったのはこちらの問題じゃなかったんだと合点しました。生の葉をお茶にすると重量比で5分の1になるということなどこれからお茶づくりをしようという人にはイメージがわく情報も書いてます。

そしてもっとも驚いたのは、茶の木は花が咲いて実になるまで1年かかるという内容です。良質の茶を作るためには、花はできるだけ咲かせないようにします。エネルギーをそちらに持っていかれないようにということでしょう。ともあれ、6月には台刈りといって短く刈り込んでしまいます。そう思うと、種に会うのもこれからあまりないことになるかもしれません。貴重なものに見えてきます。実生のチャンスは今でしょ(というわけはありませんけど)育ててみたくなります。

お茶の花は10月~12月頃に咲く:手づくりのお茶をつくる、お茶の栽培

お茶の花は10月~12月頃に咲く。1月中旬の時点でも咲いているとは言い難いが、落ちずに花だというのがわかる状態のものもある。

花が咲いて実を結んでから熟成するまで1年かかる:手づくりのお茶をつくる、お茶の栽培

花が咲いて実を結んでから熟成するまで1年かかる。ということは、この実は昨年の花からできたもの!

一つの実には3つの種が入っている:手づくりのお茶をつくる、お茶の栽培

一つの実には3つの種が入っている。実が割れて3つの種が落ちるようになっている。

たしかに茶の木の周りには、こぼれ種から発芽したものも多い:手づくりのお茶をつくる、お茶の栽培

1月中旬の時期、実が割れてすでに種が落下してるものが多い。たしかに茶の木の周りには、こぼれ種から発芽したものも多い。実生で育てていくよりも、それを移植したほうが楽ですね。

3月になったら、お茶の種をポットに植えて育ててみよう:手づくりのお茶をつくる、お茶の栽培

3月になったら、ポットに植えて育ててみよう。実生で育てるチャンスもそうそうないかも知れません(とはいえ、放置されているお茶の木が村にはいたるところにあるので、それを利用すればできることもたしか)。

竹やぶとお茶の木は相性が悪くない:手づくりのお茶をつくる、お茶の栽培

今年から新たな畑を借りところの端っこのほうにお茶の木が竹やぶの中に埋もれながらあります。まずは、竹やぶ減らしから始めなきゃ!!

竹やぶとお茶はひそかに相性が悪くなさそうだな、と思っていたところ、『おいしい<日本茶>がのみたい』にやぶきた茶の由来が書いてありました。

明治末年、静岡県安倍郡有度村(現・静岡市中吉田)の篤農家、杉山彦三郎によって開発された。急速に普及したのは、昭和三十年以降である。竹やぶを開墾した試験地の北側で増殖し選抜したのでこの名がついた。

そうだったのか。

そうでした、『おいしい<日本茶>がのみたい』には、小さい茶園を成り立たせるための方向性を示唆しているように私は受け取ったことについて書いてませんでした。

著者は、おいしい日本茶をどうイメージしているかというと、「何といっても最高は山茶の釜炒りだ。あのずば抜けた香気は得がたい」と嬉野茶業関係者の言葉を重ねています。山茶は在来種のこと、釜入りは蒸しとは違う製茶法です。手摘み、萎凋、釜入りの工程でつくっていく、こうした領域は零細な農家が強みを発揮できるところということです。

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執筆者:有賀知道

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