『天然の食卓をつくる本』

公開日:2021年1月31日 更新日:

現代人の不健康の一因として微量ミネラル栄養失調の可能性も考えられそう。野菜や果物に含まれる微量ミネラル量が減少しているのは、土壌中の微量ミネラルが欠乏しているからとの理解のもと、それを抜け出す方策について考えます。

『天然の食卓をつくる本』(高木亜由子・著、情報センター出版局、1990年)
『天然の食卓をつくる本』(高木亜由子・著、情報センター出版局、1990年)

『図解 豊かさの栄養学3 ミネラル最新』で興味を持つ

副題は「微量ミネラル元素と、たとえば健康の話」で、本書は前回紹介した『図解 豊かさの栄養学3 ミネラル最新』の中で紹介されていました。

どういう文脈でかというと、微量ミネラルも配合した肥料を与えると元気な栄養のある作物が育つという文脈においてです。

作物にふくまれるミネラル量の低下は、人間の食物としての栄養価を下げる以前に、植物自体が栄養失調になっている可能性もある。今の野菜が化学肥料と農薬なしでは生きられない虚弱植物になったのは、ミネラル不足で健康をそこなったためかもしれないのだ。

通常の肥料にふくまれいない微量ミネラルも配合した肥料を与えた場合、すぐ隣の畑では病気が蔓延しているのに、まったく病気の兆候がなく害虫もよせつけないほど元気な作物が育つということが、実際におこっている。この微量ミネラル肥料の画期的な成果は高木亜由子氏の『天然の食卓をつくる本』(情報センター出版局)に詳しい。

『図解 豊かさの栄養学3 ミネラル最新』

興味がわきました。

その前に、『図解 豊かさの栄養学3 ミネラル最新』について少し。この本は、ミネラルの機能について栄養学で解明したこと、解明しかかっている事柄(1992年当時)について説明しています。例えばこんなことが書かれています。

  • 微量ミネラルが健康維持に重要な役割を果たしている。鉄欠乏性貧血や有害ミネラルの中毒症状なら誰の目にも明らかな異常とわかるが、日常的な不健康状態がミネラルの不足で起こる可能性がある。
  • ミネラルのとり過ぎもよくない。たとえば、鉄のとりすぎは、がん細胞や病原バクテリア、ウイルスを活気づける。そうしたものは鉄を食糧にしている。風邪の時に熱を出すのは、ウイルスに食糧の鉄を与えないようにするための作戦。
  • 微量ミネラルを最適の量、摂取することはそれほど容易なことではない。
  • ビタミンの吸収率は一般に60~90%と高いので食品にどれくらいのビタミンが含まれているのかが大事だが、ミネラルはそう簡単ではない。たとえばカルシウムは、子供のころは60%程度吸収できるが、大人になると10%くらいしか吸収できない。
  • ミネラルの吸収は様々な要素によって左右される。消化の状態や腎臓の機能の状態など個人差が大きい。食事内容から十分なミネラルが摂取できるはずと思っても吸収されている保証はない。
  • ミネラルの貯蔵庫の代表が骨。カルシウムの97%、リンの85%、マグネシウムの60%、ナトリウムの25%がしまわれている。
  • 骨は必要に応じて血液中にミネラルを出し入れする役目も果たしている。骨の中のカルシウムは10年間ですっかり入れ替わるといわれるくらいだ。
  • 一つの細胞には平均5000個の酵素がふくまれていると推定される。酵素を機能させる補酵素にはビタミンもなるが、数的にはミネラルに頼る酵素のほうが圧倒的に多い。たとえばマグネシウムは500種類以上の酵素と関わっていると推定される。
  • 酸性の水質(軟水)の地域では高血圧の患者が多く、アルカリ性の水質(硬水)の地域では少ない。水の硬度は、水の中にふくまれるカルシウム塩とマグネシウム塩の合計によって決められる。

これはこれで面白いのですが、ワタクシ、関心をもって読んだのは、ミネラルの基礎知識です。そもそもミネラルとは何? 

料理の食材でも、野菜づくり・土づくりにも出てきます。大事そうだけれども何となくやり過ごしていました。これもよくわからないのに、無肥料で作物を栽培しようとしていたとは!

自然栽培や自然農でしていけば微生物が活発になってきて、ミネラルとやらもどこかからうまく調達してきてくれるだろうぐらいのイメージでしたが・・・。

ミネラルとは元素のこと。

人間の体と健康を維持するのに必要な元素(40種類以上)のうち、4つの主要元素を除いたものと、『図解 豊かさの栄養学3 ミネラル最新』で説明してくれます。

  • 人間のからだは主要元素、O(酸素)、C(炭素)、H(水素)、N(窒素)で97%。炭水化物、脂肪、タンパク質、ビタミンもほとんどこの4種類の元素でつくられている。ミネラルと言われるのは残り3%の世界の話。
  • ミネラルはどんな生物にもつくれない。われわれが動物の肉や野菜からとるミネラルは、その生物の体の中でつくられたものではなく、大地や水からとられ受け継がれてきたもの。
  • 耕地にふくまれる量が、収穫される作物のミネラル含有量を決定的に左右する。
  • 日本の土壌のミネラルの含有量は全般に低い。火山灰土壌の割合が高く酸性の土になりやすいのでミネラルが少ないうえに、雨が多いので表面の層にあって水溶性の分子として存在している水に溶けて流れやすい。

きれいさっぱり忘れていますが、おそらくかつて理科の授業で習ったことなんでしょうね。基本的なことを理解してないとは何と危なっかしいことか。

微量ミネラルは人間にも作物に大事

前置きが長くなりましたが、本書は「通常の肥料にふくまれいない微量ミネラルも配合した肥料を与えた場合、すぐ隣の畑では病気が蔓延しているのに、まったく病気の兆候がなく害虫もよせつけないほど元気な作物が育つということが、実際におこっている。この微量ミネラル肥料の画期的な成果」をレポートしています。

話の前提とし、現代人の不健康の一因としてミネラル栄養失調がある ← 食物中のミネラルが欠乏している ← 作物のミネラルが減少している ← 作物を育てる土壌のミネラルが欠乏している、となります。

これを踏まえていくと、土壌のミネラルバランスを整える → 元気な作物が育つ → 元気なので農薬もいらない → ミネラル豊富で天然な作物 → それを食べて健康になる。

ミカン農家をはじめ、コメ、ブドウ、キュウリ、ゴボウをつくっている現場を著者は歩き自分の眼で確かめていきます。農薬散布から解放された姿や、連作障害を乗り越えた姿を目の当たりにします。

現場で使っている微量ミネラル肥料は、 「総合ミネラル」という具体的な商品のことです。開発者の福本敬介さんの取材もあり、開発にともなう考え方も聞き出しています。

  • 「微量元素」が欠乏してからだがおかしくなっているのは人間だけではない。植物も同じ。「微量元素」栄養失調で虚弱に育つから、病害虫に冒されやすく、農薬を使うことになる。ちょうどからだの弱い人間が薬に頼るように。
  • 肥料には、必ずしもその作物に必要なミネラルが含まれているとは限らない。
  • 水に溶けて植物に食べられる状態になったときは、有機質肥料も、化学肥料も変わりない。
  • 土には常時、雨水や河川、大気中より鉱物資源が注ぎ込まれ、これらが植物のミネラル供給源となってきたが、同じ農地で同じ作物をたてつづけにつくれば、その作物は自分の好む養分ばかり吸収するから、ある特殊成分が欠乏してくる。その結果、あるミネラル栄養失調症となり、発育不良となって実をみすばなかったり、虚弱なからだに害虫害菌がとりついて奇病が発生したり、作物に様々な整理障害が起きてくる。これがいわゆる連作障害である。
    その欠乏した栄養分を一作ごとに補給してやれば、連作障害は起こらない。

肥料の3要素と言われる、窒素、リン、カリばかりを考えていてもダメというわけです。だから「総合ミネラル」という商品名ということでしょう。

本書でも少し説明していますが、リービッヒの最小律とドベネックの桶と呼ばれる説を実際に適用するとこうなるかもしれません。最小律は、植物の生長速度や収量は、必要とされる栄養素のうち、与えられた量のもっとも少ないものにのみ影響されるとする説です。それをわかりやすく図にしたのがドべネックの桶です。

もっとも現在では、この説は広くは受け入れられていないようです。

植物の生長にはそれぞれの要素・要因が互いに補い合う場合があり、特に養分間の拮抗関係と相乗効果があり、リービッヒ最小律は必ずしも普遍的に適用されるものではないとされている。

リービッヒ最小律は経験則であり、厳密的に言えば、非常にごく限られた環境でのみ当てはまる理論である。但し、偏差があっても一定の範囲内に適用される有用な経験則であることが間違っていない。

「化学肥料に関する知識」 BSI 生物科学研究所

商品のほうもネットで見る限りそれほど広がってないようです。本書で感激しているほどにはうまくいかなかったのかもしれません。価格なのか成分なのか効果なのか、何が問題なのかはわかりません。

具体的な商品はさておき、考え方としては記憶にとどめておきたいのと同時に、食べ物の摂取にしても、作物の肥料にしてもバランス感覚を失わないようにするための戒めとして書き残しておきます。

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執筆者:有賀知道

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