『図解でよくわかる施設園芸のきほん』

公開日:2022年10月23日 更新日:

もうじき、1aほどですがハウスの中で野菜を作りはじめる予定です。それに先立って本書です。初歩的なことからわかるような手ごろなものがないかと思い探しました。

ハウスの特徴を踏まえた一番いい活用の仕方や作付け計画に活かそうと思って読み始めましたが、それよりも、施設栽培の管理の緻密さに関心しきりでした。なので、本書をお勧めするというよりは、施設園芸から得られている知見は施設園芸をやらない人、関心のない人でも面白いかも、というところです。

『図解でよくわかる施設園芸のきほん』(中野明正・著、誠文堂新光社、2021年)
『図解でよくわかる施設園芸のきほん』(中野明正・著、誠文堂新光社、2021年)

施設園芸の狙いは旬外し

今回のハウス栽培は、無加温ハウスでの栽培です。雨除け、虫よけのほか、保温カーテン、遮光カーテンがついているので、ある程度の温度調整ができるところです。露地ではマイナス10度近くなることもたまにあるところなので、そこではできない冬野菜もできるし、苗づくりにも、乾燥させる場所としても使えるかな、ぐらいの感じでした。大自然が広がるところで施設園芸でもないだろう、加温ハウスや植物工場にいたっては取り入れる気も興味もありません。

でも、施設園芸の基本を理解することによって、植物の理解も一段と進み、露地栽培に活かせるものもありそうです。一度は施設園芸のありようを知っておくのも悪くないと思います。

そもそも施設園芸の狙いは旬外しです。農家にとって旬は出荷量が増えて、単価が下がるので利潤を上げにくい。旬をずらすため作型が開発されてきましたが、早生や晩生のような品種の開発とともに、施設園芸では環境を制御することにより旬を大きくずらすことができます。

施設園芸を理解することによって、植物の理解もすすむ

施設園芸の最先端、養液栽培のような植物工場のようになってくれば、プラントの導入ということで、植物の理解がなくてもできるようになっているでしょうが、プラントの設計段階では、植物の理解に基づいて、緻密に計算され管理される必要があるのがわかります。なにせ、日光も、土や有機物、微生物にも依存しないわけですから。たとえば施肥量にしても緻密です。露地では作用するものが複雑すぎて何がどう影響しているのか断定するのもなかなか難しいところですが、養液栽培なら、何をどう増やしたらどうなったか、突き詰めていくのもそう難しくはないでしょう。トマト栽培ではカリウムの増減でクエン酸濃度を変えられるので単に甘いだけでない受けのいい食味を作り出すみたいなことも可能です。

そもそも、植物の必須元素は17種と言われていますが、こうしたことも、閉じたところで培養液のような形でテストしないと判明しません。たしかに、言われてみればそうです、露地のようなところでは影響を及ぼすものが複雑すぎるわけですから。ベテラン農家の人でもよく言うように畑は1年1年状況が違う、毎年新たな気持ちで臨む。新たなやり方で今年失敗したら来年まで試せません。

しかしながら、植物工場のようなところでは、テストがいくらでもできるわけですから結果の出方も早い。もっとも、その知見を露地栽培に応用しようとしても、複雑性の中に入っていくわけでそう簡単に同じようには結果はでないと思いますが。

温度管理の話も非常に面白いです。施設栽培では温度管理が緻密にできるものがあるからこそです。こんなことが書いてあります。

  • 高温期は、温度上昇に伴う呼吸消耗をいかに抑えるかがポイントである。
  • 果菜類は、昼温を高め夜温を下げる管理が一般的である。これは夜間の呼吸による消耗を抑え、果実への転流を促進して高品質多収の生産物を得るという観点から合理的である。
  • 光合成産物は温度の高い部位へ転流するため、室温の急激降下により葉温を低下させ、果実や地下部への転流を促進する狙いである。果実肥大が促進される一方、生長点への転流が相対的に減少し、草勢が弱くなる場合も考えられる。

高温で呼吸で消耗なんて考えたこともありませんでした。無加温ハウス栽培でも少しは取り入れられるものです。

極めつけは、DIFというやつです。初めて知りましたし、これには驚きました。DIF(The Difference between Day and Night Temperature )は、昼温と夜温の温度差のことです。+DIF(昼の温度を高くする)により草丈伸長促進効果が、 -DIF(夜の温度を高くする)により草丈伸長抑制効果が発現するというものです。+DIFは寒暖差があるということでそうすると成長が早いということです。 -DIFのほうの夜の温度のほうが高いということは普通ないわけですが、それをやる。どういうところでやるかというと、苗の育成に活用する。するとどうなるかというと、徒長苗になるのを防げてガッシリした苗ができるわけです。9月にザーサイの苗をつくりましたが、徒長苗になったのを思い出し妙に納得してしまいました。

緻密な管理なので、施設栽培では数字がよく出てくるのもわかりました。

例えば、種の保存の仕方、保存で、いろいろな本を見てきましたが、こんな断定的に書いてあったのには初めてお目にかかりました。

種子の適切な保管には、種子の含水率と温度が多く影響する。種子の老化の原因は、酸化を端緒とする化学反応が起こることで、種子成分が変性して機能しなくなることである。経験則として、①種子の寿命は種子の含水率が1ポイント増加するごとに半減し(含水率5~14%で成立)、②保管温度が5℃増加するごとに半減する(0~50℃で成立)。含水率は貯蔵物質の構造に組み込まれている「結合水」と、溶媒として流動性を高める「自由水」があるが、「結合水」までなくなる極端な乾燥をするとダメージを与えることになる。「自由水」がなくなる程度に乾燥で細胞内の流動性を低下させ、老化につながる反応速度を究極まで低下させる。

施設栽培に露地栽培はかなわないか

高度な施設栽培では、土は使わずロックウールなどを培地として利用して、光はもちろんのこと温度も湿度、かん水、施肥量、二酸化炭素濃度、風なども制御します。旬を外すことはもちろんのこと、大きさや味なども調整可能でしょう。本書では施設栽培の未来は明るく、施設栽培するものに露地栽培のものは勝てなさそうな雰囲気も醸し出しています。

でも、こういうところで作られたものを食べる気もおきないな~と思いつつ、太陽エネルギーを使わず土も使わないような植物工場をやることはないだろうと思いつつ、これから広がっていくのかな~と不気味に思いつつ、一方でこういう知見はいかせるよな~と思っています。

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執筆者:有賀知道

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