『観察する目が変わる植物学入門』

公開日:2019年8月31日 更新日:

『観察する目が変わる植物学入門 』(矢野興一・著、ペレ出版、2012年)。

『観察する目が変わる植物学入門 』(矢野興一・著、ペレ出版、2012年)。植物観察するときの手引書になります。

植物の名前を調べるのは難しい

裏庭になにやら怪しげな花が咲いています。昨年は咲いてなかった気がします。気軽に触ってかぶれるのも嫌だけど、もしかしてお宝の植物だったりして!

知らない植物に出くわしても、図鑑を見れば植物の名前は調べられる、と思っている人も多いのではないでしょうか。しかし、そうはうまくいきません。

植物図鑑では、植物の分類法に基づいて各植物が掲載されています。例えば、裸子植物と被子植物、被子植物は単子葉植物と双子葉植物、双子葉植物は合弁花類と離弁花類という具合です。そして、そららの中の、さらに科の中に掲載されています。

なので、科がある程度特定できてないと、1ページずつ全部見ていくなんていうことになるわけです。たとえば、手元にある『日本の野草』は日本に自生する約1500種が掲載され700ページほどあり、さらに詳しい『新牧野日本植物図鑑』は約5000種が掲載されていて1400ページほどになります。1ページずつなんて現実的ではありません(ちなみに、世界には植物の種は25万種以上あると言われています)。

図鑑で調べるためにも、その植物の「科」ぐらいは推定できないと難しい。では、どのようにして科を推定すればいいのか?

どのように分類しているのか

植物は、同じ形や特徴を持つことによって、それぞれのまとまりに分類されます。分類学の父と言われるリンネは、雄しべの数を目印にして、数とつき方が異なる24のグループに分類しました。

今は、雄しべの数ではなく、重要と認められた形を主に全体として形が似ていることや、DNAレベルでの特徴も取り入れられて分類されています。

いずれにしても、特徴をもとに分類され、その中に科があるわけなので、逆に、科を推定するためには、植物を観察してその特徴をつかみ取れなければなりません。

科を推定してみる

本書は、特徴をつかみ取るための見るべきポイントを教えてくれます。植物観察するときの手引書と言ってもいいでしょう。 茎、葉、花、果実、種子、あと目で直接見えないですが根です。各部位ごとの章だてになっていて、それぞれに様々なタイプがあることを身近にある植物を数多く例に取り上げて説明してくれています。

例えば、茎が四角形という特徴を持つもの、葉が対生という特徴(茎の同じ位置に2枚の葉が反対方向を向いてつく)を持つもの、唇のような花びらの特徴(唇形花冠と呼びます)を持つもの・・・といった具合です。

対生はシソ科やアカネ科などでも見られます。唇形花冠は、シソ科やゴマノハグサ科でも見られます。茎が四角形なのはシソ科に見られます。なので、この3つの特徴があればシソ科というように推定して間違いないでしょう。

わが家ではバジルとミントをプランターで育てています。両方ともシソ科ですが、今回、本書を読んではじめて、茎が四角であると気づきました(泣)。水やりや、葉を摘んだりしていたのですが、ぜんぜん見えていなかったわけです。そもそも、茎が四角なんていう発想がありませんから。

あらかじめ、見るべきポイントを知っておかないと、見えないということがあるのかも(言い訳です)。

バジルの茎が四角形だったとは! うかつだった。

知らない植物を、本書と照らし合わせて、特徴をまとめていけば、科の推定はある程度はできるように思います(花が咲かないとわからなかったり、掲載されていない科もありますが)。身近な植物であれば、例に取り上げられているかもしれませんので直接名前もわかるかもしれません。

植物事典で調べるのを楽にする、これも本書の一つの使い方です。

まずは、知っているものの理解から始める

知らない植物へといきなり漕ぎ出し、あ~でもない、こ~でもないとするの悪くないですが、やはり準備体操から入ったほうがスムースです。

準備体操とは、一度本書をざっくり読み通して、部位には様々なタイプがあることを理解したら、あとは、まず、すでに知っていて、なおかつ実際に見ることができる植物を巻末の索引で検索して、その特徴をよく理解するところから始めるというものです(シソ科の茎が四角形だと気づかされたように!)。

たとえば、わが家でも育てていて花もよく見ているナスですが、本書の花の章の中で取り上げているナスのところは以下のように説明されています。

ナスは淡い紫色の花をやや下向きに咲かせます。中心には、黄緑色の雌ずいのまわりを黄色の雄ずいが囲んでいるのが観察できます。花の形を見ると、筒の部分が短くて、5つの大きな裂片が放射状に水平に開いています。このような形の花冠を「車型花冠」といい、ナスの仲間やワスレナグサなどの植物で見られます。ちなみに、ナスは萼が「へた」となって残ります。

普段何気なく見ていたナスの花ですが、このように花の特徴を描写してもらえれば、他の植物とも比べやすくなります。「やや下向き」とか、「囲んでいる」「筒の部分が短い」「5つの」「放射状」と軽く読み飛ばしてしまいそうですが、違う形のものがあるということです。

特徴のポイントを教われば、ナスの花の見方も変わる。

いつも何気なく見ていたナスの花だが、特徴のポイントを教えてもらうと見方も変わる。

本書には、もちろん、耳慣れない、花弁(かべん)や萼(がく)、その他基本的な用語の説明もあります。

まずは、すでに知っていて、実際に見ることができるもの、そして、関心のあるものならなおさらいいですが、その観察から入るのがいいように思います。それで、基本を理解してから知らないものに広げていく。

なぜそのようになっているのかも合わせて

都会から田舎に遊びに来る人は見つける植物を指さして、この植物は何? と聞いてきます。仮に答えを知っていて教えると、それで満足してしまいます。それ以後、だいたい話は進みません(おそらくその名前も、すぐに忘れてしまうでしょう)。

それに比べれば、自分で調べるようになれば植物の理解は格段に進みます。観察眼も鍛えられるでしょう。

本書は、たんたんと、植物のつくりについて書かれていまが(観察のためなので当たり前ですが)、時折、その意味も書かれているようなところがあります。それを行間から感じ取れば、記憶にも残りやすく、さらに観察にも膨らみが出るように思います。

たとえば、どうして、唇のような花びらになっているのか? 

他の形の花びらの説明も合わせ見て、自分で整理してみるのも良さそうです。

田舎に遊びに来た人に説明するときも、この花の形は「唇形花冠」と言ってシソ科やゴマノハグサ科に特有なものだよ、という説明とともに、なぜ(らしきこと)、を説明すればより関心をひくことになるかもしれません。

んっ?  最初に言っていた、お宝の植物は何かわかったのかって? シュウカイドウ(シュウカイドウ科)というものでした。最後に、ガッカリさせて申し訳ないですが、シュウカイドウ科、本書にも、『日本の野草』にも載ってませんでした。たまたま新聞に、○○寺にシュウカイドウが咲き乱れている写真が掲載されているのを見て、同じだ! と思った次第です。

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執筆者:有賀知道

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