『小林カツ代のお料理入門』(小林カツ代・著、文春新書、2015年)。まずは、自分用に好きなものを料理することから始めてみよう。
料理ができないと困る
田舎暮らしでは、周りの人から野菜などのいただきものがたくさんあります。それをどう料理するかは、かなり大事なことです。旬な素材が大量にあるわけで、いろいろな料理法を知っておいたり、工夫できないと、同じ料理ばかりになってしまいますし、最後には無駄にしてしまうかもしれません。
とともに、田舎にはそもそも近くにスーパーやコンビニがありません。都会生活のように、かんたんに総菜を買ってきて済ませるわけにもいきません。
料理をすることは、田舎暮らしを充実させるための大事なポイントです。田舎暮らしをする前に、何を準備をすればいいのかとなれば、料理をするようになることは上位にランクインされるでしょう。
中高年男性も例外ではない
もっともこうした力は、田舎にいようがいまいが、老若男女問わず、これからの時代ますます求められるかもしれません。人にあまり頼らないで、自分の面倒ぐらいは自分でみろ、と。たとえば、家族のためと、会社一筋に生きてきた男性も例外にはしてもらえないかも。
会社一筋の男性が退職して会社との縁が切れたとたん、社会から孤立し、結果、妻に一日中まとわりつく、そうすると、妻は、めまいや頭痛を訴える、こういう現象が「夫源病」と呼ばれます。名付け親は、男性の更年期外来が専門の医師・石蔵文信さんです。
石原さんは、男性がせめて昼ご飯だけでも作れたら、妻の負担が減るのではないかと考え、中高年の男性向けの料理教室を始めたら、盛況だそうです。たしかに中高年男性向けの料理教室は需要がありそう。
それはさておき、料理をやらされてやるより、自ら進んでやっていきたいところ。それのほうが苦痛がないですし工夫も生まれます。まぁ、そんなことをいう必要もなく、料理して、うまいものにありつければ、黙っていてもやる気ががぜんでてきますが。
料理教室に通うのも手でしょう。クックパッドやTVの料理番組、ユーチューブを見て勉強、人に教えてもらうのもあり、方法はいろいろ、人それぞれです。私は、もっぱら本を読みます。ただのレシピ本というよりは、著者の考え方がわかり、料理の背景や解説豊富なものが好みです。
ともあれ、どういう方法であれ、頭でわかっただけでは役にたたず、実践してみないことには、身につきません。
まずは、自分用に作ってみる
本書は、ある程度料理を知っている人向けの『実践 料理のへそ!』(文春新書)という本がもとになっています。それを初心者にもわかりやすいように再構成しています。扱っているのは、家族のための料理というよりも、自分のための料理です。
なので、簡単にできるものがほとんどです。料理と呼べるかわかりませんが、オーブントースターで焼く酒の肴として取り上げていて、これ以上のものはないと評する油揚げについては、こんな感じです。
バリバリに焼いてサッと醬油をかけて、めんどうなら七味唐辛子、余力があるなら、生姜を皮のままおろして、生姜醤油。家で一人でちょっと飲もうかな、というときなぞ、口元がほころびっぱなしになりますよ。一人だからこそ、この焼きたてバリバリに齧(かじ)りつけるんですから。ご飯のおかずにも、もちろんいい。うどんに入れてもいいですしね。
厚揚げも同様です。大きいまんま焼いて。大根おろしとおろし生姜と醬油。永遠に旨し。
本書で取り上げているもので、一番手間のかかりそうなものでも、ハンバーグぐらいまでです。一番お金のかかりそうなもので、ビーフステーキやイクラ丼です。
私が参考にしているのは、厚揚げのほか、ポテトサラダやショートカット焼き茄子、オムライス、豚キムチ、チキンソテー、ヒラヒラカレーなんていうようなものです。
これまで料理をまったくしたことがない人の、料理入門書として、非常に入りやすいものと思います。
著者には、主に男性に向けて、自分の食べるものは自分でまかなうこと、というコンセプトの『自給自足』(日本経済新聞社、1996年)という本もあります。これも初心者向けです。
両書とも、誰もが料理を作れるようになってほしい、という著者の思いをベースに工夫を凝らした内容で料理初心者を励ましてくれます。