『雑草はなぜそこに生えているのか』

公開日:2020年6月12日 更新日:

『雑草はなぜそこに生えているのか』(稲垣栄洋・著、ちくまプリマ―新書、2018年)。
『雑草はなぜそこに生えているのか』(稲垣栄洋・著、ちくまプリマ―新書、2018年)。サブタイトルは、弱さからの戦略。

田舎暮らしは雑草との戦い

田舎暮らしは雑草との戦いとも言われます。自分の土地でも持とうものなら、春から先、涼しくなるまで雑草との闘いにそれなりのエネルギーを注ぎ込まなければなりません。さらに、畑でもやろうものなら、もっとシビアに雑草と付き合う必要もでてきます。

たしかに、雑草をなくせば害虫や蛇の温床になるのを防ぐことはできるし、すっきりして気分もいい。田舎暮らしをスムーズにするポイントでもある、周りの人からもちゃんとしている人だと思われます。

戦いは主に駆除ということになるでしょうが、 彼を知り己を知れば百戦殆からず、です。でも、雑草のことをどれくらい理解しているのかというと疑わしい限りです。

理解すれば、最上の戦い方、戦わずして勝つ、みたいなこともできるようになるかもしれません。

雑草への理解を進めていく傍流の道は、いつの間にか植物をより深く理解させてくれる大通りに出る気もします。

雑草は他の植物との競争に弱い

では、雑草はどんな特徴を持っているのか? 

もっとも基本的な特徴は、弱い植物である、と著者は言います。弱いというのは、他の植物との競争に弱いということです。

光を奪い合って、植物は競い合って上へ上へと伸びていく。そして、枝葉を広げて遮蔽しあうのである。もし、この競争に敗れ去れば、他の植物の陰で光を受けられずに枯れてしまうことだろう。
戦いは地面の上だけではない。地面の下では、水や栄養分を奪い合って、されに熾烈な戦いが繰り広げられている。植物は穏やかに生きているように見えるかも知れないが、激しく争い合っているのだ。
植物は、太陽の光と水と土さえあれば生きられると言われるが、その光と土と水を奪い合って、激しい争いが繰り広げられているのである。

ある場所に集まって生育している植物の集団を植生と言いますが、植生は放っておけば小さな植物から大きな植物へと変化していきます。この変化は遷移と呼ばれています。

火山の噴火後のような何もない状態からスタートする遷移を一次遷移と呼びます。人間によって土地が開発・造成されたり、山火事など、すでに植物が生えるのに適した土からスタートする遷移を二次遷移と呼びます。

遷移は、裸地 → 草原 → 低木林 → 陽樹林 → 混交林 → 陰樹林と進むと言われています。雑草は、どの段階に出てくるものかというと、遷移の初期段階です。パイオニア植物としての性格を持っていると著者は説明します。

空き地ができたり、土地が造成されると、最初に生えてくるのが一年生の雑草です。それが多年生雑草に変わっていきます。

何年も生きることのできる多年生雑草は、スタートダッシュは遅いかわりに、地面の下の根っこなどにじっくり力を蓄えることができるので、雑草の中では比較的、競争に強い。そのため、一年生雑草を押しのけて広がっていくのである。

背の低い多年草 → 大きな多年草 → 小さな木 →・・・と遷移していくわけです。

この流れを見ると、雑草を駆除するという行為は、遷移の進行を止めたり、遷移の流れを少し元に戻すと位置づけられます。これは、毎年、畑を耕して作物を栽培するというのも同じことです。遷移の初期段階に生える雑草にとっては、耕されたり草取りされたりすることで、生存の場が確保されているということにもなります。面白いです。

(ゴキブリは人類が滅びた後もしぶとく生き残るであろうという話をうけて)
雑草もしぶといが、それは抜いても抜いても生えてくるようなしぶとさである。抜く人がいなくなってしまえば、雑草はただの「弱い植物」に過ぎない。

雑草の種は10年祟ると言われるが、雑草を育てるのは難しい

抜いても抜いても生えてくるしぶとい雑草、田舎の地で完全になくそうとすれば、地面をコンクリートにでもしない限り難しいでしょう。

なぜ難しいかというと、雑草は雑草で生き残りをかけて、雑草を生やそうとするからにほかなりません。たとえば、雑草は、種子が地面に落ちてもすぐには芽を出さないという仕組みを持っています。これは休眠と呼ばれ、生育には適さない状況下では発芽せず、適した状況になると発芽するというものです。

長いものでは10年も休眠できるものもあるそうです。雑草の種は10年祟ると言っている農家の人もいるぐらいです。本書で紹介していますが、イギリスの小麦畑の調査によれば、1㎡あたり土の中に7万5000粒もの雑草の種子があったと報告しています。

同じ種であっても一粒一粒の休眠に差があったりします。ということは発芽するタイミングもバラバラです。雑草の種子は、できるだけ揃わないことを大切にしているとも言えます。一度に発芽すれば、草刈りされてしまば一度にやられてしまう危険があります。

地表に草がなくなったのを赤色光で感知して芽を出すものまであるそうです。雑草おそるべしです。

雑草は多様性が大事。アイルランドの大飢饉を踏まえて

一粒一粒に休眠の差があるというのは、遺伝的な多様性の現れです。均一ではなく、バラバラになりたがる性質と著者はわかりやすく説明してくれます。

環境はさまざまだから、どんな性質が優れているかは、環境によって変わる。あるいは、時代が変われば求められる性質も大きく変化するかも知れない。
そのため、生物は多様性を保ち、できるだけ個性ある集団を作ろうとするのだ。

しかし、遺伝的に多様性のない特異な植物があります。そうです、人間が育てる野菜や花です。たしかに、コシヒカリの種を蒔いたのに味がバラバラだったり、発芽時期や成長スピードがバラバラだったら大変です。当たり前のように思えるが、これは本当にすごいことだと著者は言っています。

多様性がないといかに危ないか、ジャガイモの疫病から起こった「アイルランドの大飢饉」という恐ろしい例を挙げて著者は説明してくれます。

ジャガイモは、南米アンデスが原産です。コロンブスの新大陸発見以降にヨーロッパにもたらされ、各地で栽培されるようになります。麦が育たないような痩せた土地でも育つので、ヨーロッパの人々は飢えから救われるようになったというほど重要な食料になります。

1840年代にアイルランドでジャガイモの疫病が発生し大飢饉となります。100万人に及ぶ人が餓死し、200万人もの人々が国外へ脱出、その多くがアメリカを目指します。今でも全米で4000万人もの人々がアイルランド系の祖先を持つと言われているほどです。

この大飢饉の原因は、ジャガイモの栽培にありました。ジャガイモは種イモを植えて増やしますが、アイルランドでは、たった一つの品種だけを栽培していました。

一つの品種しかないということは、その品種がある病気に弱ければ国中のジャガイモがその病気に弱いということになってします。そのため、みるみるうちに国中のジャガイモが壊滅してしまう結果となったのである。
原産地のアンデスでは、多くの品種が栽培されている。そうしておけば、ある品種が病気にかかっても、別の品種は同じ病気に強いかも知れない。多様性があれば、全滅することはないのである。

除草剤の効果の違いから、イネ科雑草という分類ができている

遺伝的な多様性を作り出してくれるのが他殖(他の花と花粉を交換)です。でも、雑草の中には他殖をしながらも、いざとなったら自殖(同じ花の中の雄しべから出た花粉がその花の雌しべに受粉する)できるようなものもあります。自殖なら多様性を作り出せないけれども確実に受粉できます。ツユクサやハコベ、オオイヌノフグリ、スミレ、ホトケノザなどです。

環境の変化にも対応できるよう、他殖へと進化してきたが、古い方法もオプションとして残しておいて何としても生き残ろうとする、すごいことです。

著者が革命的な変化と指摘しているのが、裸子植物(胚珠がむき出し)から被子植物(胚珠が子房に包まれている)への変化です。これにともない、風媒花(風が花粉を運ぶ)から虫媒花(虫が花粉を運ぶ)になりました。風任せよりも昆虫のほうが、すこぶる効率がよくなります。

しかし、被子植物の中で、もっとも進化した双子葉植物と言われるキク科に風媒花も多い。花粉症の原因の一つであるブタクサなどです。また、単子葉植物でもっとも進化したと言われるイネ科はすべて風媒花です。

進化も一筋縄ではありません。さておき、雑草はイネ科雑草と広葉雑草に分類されるそうですが、それは除草剤の効果の違いからそうなったというのには驚きです。

田舎暮らしでも、除草剤を使ってでも雑草を駆逐してやろうと躍起になっている人もいます。たしかに、雑草にとって除草する人間は敵のように見えます。しかし、その敵の存在によって生存の場が与えられている、なんという面白さか。

おそらく、人間がいない環境で生き続けることは難しいだろう。絶滅することはないかも知れないが、氷河期の祖先がそうであったように、地球の片すみでひっそりと生き続けることしかできないはずである。

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執筆者:有賀知道

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