栄養学が重要な意味を持つのは、実はグルメブームが起こるような豊かな社会において、と説きます。
基本的なことをスッキリ理解できる
本書を読むまで、炭水化物 ≒ デンプン ≒ 米や小麦、ジャガイモやサツマイモぐらいの理解でいました。それでも何となくわかったような気になっていました。本書を読んで、炭水化物、デンプン、糖の関係性がより明快になりました。スッキリです。砂糖、牛乳(乳糖)もどこに位置付けられのかも完璧です。
前回紹介した『伝統食の復権』で、ヒトはデンプンを分解する酵素であるアミラーゼの活性が高い、だとか、乳糖をブドウ糖とガラクトースという糖に分解させることができない、ともっともらしく説明しましたが、本書を読まなければその意味するところがよくわからなかったと思います。
これからも食に関係する本を読みまくっていこうと思っているものとしては、初めのうちに本書のような本で栄養学の基本的なことを学べたのはラッキーでした。
栄養学の本と言っても、教科書的な味気ない記述よりも、好き嫌いはあるでしょうがテーマがあるのも読みやすいです。
飢餓には何万年と耐えてきた生き延びてきた人類が、豊かな生活を手に入れたとたん、坂から転がるように自滅の道をつきすすむという悲劇を、「豊かさの栄養学」ははっきり指し示す。
例えば、体内で燃焼してカロリーになる栄養素は、炭水化物と脂肪とタンパク質です。主燃料は炭水化物です。炭水化物は消化されブドウ糖になって燃料になりますが、必要以上に取り込んでも一切無駄にはなりません。脂肪に変えて体内に貯蔵されるからです。飢餓状態になったときはその脂肪が動員されて燃料になります。
まさに飢餓対応のメカニズムです。
でも、飽食の時代には、脂肪が燃料に使われるような状況は訪れず、際限なく脂肪細胞は膨らんでくることになります。たしかに、豊かさの栄養学で対応しないとえらいことになりそうですな。
栄養学が重要な意味を持つのは、実はグルメブームが起こるような豊かな社会においてなのである。
痛風を栄養学的に理解すると
飢餓に適応してきた体のメカニズムは、豊かさの前にうまく適応できないというのは、例えば、過剰に摂取したタンパク質を排泄するメカニズムがスムーズでないことに現れているといいます。
良質なタンパク源だからと肉や肉加工品を食べていればすぐに過剰になるようです(ちなみに、タンパク質はアミノ酸がつながってできている)。
そもそも摂取しすぎたタンパク質は貯蔵されません。分解されて尿として体外に出されます。アミノ酸 → アミノ基 → アンモニア → 尿素という具合です。アンモニアは有害なので解毒して尿素になるのですが、その役割を担うのが肝臓です。
大量のアミノ酸が分解されると、血液が一挙に酸性に傾くため、それを中和するために体は骨や歯の組織からカルシウムを溶かして血液中に送り込む。
尿素が増えてくるとそれを流しだすための大量の水分が必要となり、水分と一緒にカルシウムも排泄される。
タンパク質のとり過ぎはカルシウムの損失を招く。
さて、尿素の排泄がスムーズに行われないと尿酸に変わり、関節の周囲の軟組織に尿酸ナトリウムの結晶が貯まって炎症するようになる。つまり痛風。( ← はい、ワタクシのことです)
30年以上前に書かれたことなので、現在はもっと新しい理解になっているかもしれません。
とはいえ、先日痛風になりかけたときにすんでのところで助かったのは、すぐにアルカリイオン水を飲み始めたことで、アミノ酸の分解~排泄までがスムーズに進んだからなのかな~ と本書流の理解です。
ではどうするのかということですが、著者は、タンパク質としては穀類と豆類の組み合わせを基盤にした食事を勧めています。食べすぎることもないし、しかもこれらには代謝をスムーズにするビタミンが含まれてもいます。あとは、魚で補い、肉はなるべく少なめにという感じです。
糖尿病を栄養学的に理解すると
血糖値にしても飢餓に適応してきた体のメカニズムです。(最初に白状しますと、糖が血液に出て行ってしまっていること自体問題なのか、ぐらいの理解でこれまで生きてきました)
炭水化物は消化されて、何種類かの単糖体となり、最終的には肝臓ですべてブドウ糖に変えられる。体は、ここで当座に必要なブドウ糖を除き、蓄えられる限りのブドウ糖を一旦貯蔵庫に押し込んでしまう。それから、小出しにブドウ糖を血液中に送り出し、血糖値が一定のレベルに保たれるようにする。つぎの給料日ならぬ食事時までブドウ糖は入ってこないのだから、これがブドウ糖を使うのに一番安全な方法で、それは家計を預かる人の場合と変わりがない。なにしろ、血糖値に赤字を出すと脳がストップするだから命懸けである。
脳細胞はほとんどの場合、ブドウ糖しか燃料として使えないそうです。そのため、血液からのブドウ糖の供給が切れると、わずか数分で脳の働きは停止します。体が様々なメカニズムを駆使して常に血糖値を安定したレベルに保とうとする大きな理由はここにあると著者は指摘しています。
ほかの細胞にしても、必要なすべてのものは血液を通した配達で届けられるしかなく、細胞の必需品は血液中につねに十分な量含まれていなければなりません。
さて、ブドウ糖の貯蔵方法も2種類あって、著者の表現を借りれば「へそくり」的なグリコーゲンと、「銀行預金」の脂肪です。へそくりは量はすくないが、サクッと出し入れできます。一方、銀行預金はいくらあっても困らないとばかりに無制限にため込めます。
ともあれ、あの手この手で燃料切れにならないようになっているということです。
ブドウ糖は貴重なエネルギー源なので、腎臓は、できる限りこれが体内から漏れないように目を光らせている。しかし、血糖値が160以上になると、腎臓がブドウ糖を再吸収できる限度を超えるので尿に出るようになる。これが糖尿病である。
飢餓に耐えられるように、血糖値が下がらないようなメカニズムにはなっているが、上がることにはうまく対応できていないようです。
遺伝的なものを除いて、原因の一つとして血液中の脂肪の量が増えて、細胞にブドウ糖がうまく取り込まれないために起こると説明されています(細胞膜にあるレセプターを回転ドアに見立ててブドウ糖、インシュリンの動きを図解で説明していてたいへん分かりやすい)。
食事とすれば、まずは脂肪をとり過ぎないということなります。
脂肪、おそるべし
現代のタンパク質のとり過ぎは肉や肉加工品を食べすぎるために起こるので、必然的に動物性脂肪のとり過ぎにつながります。
動物性の脂肪をとるとどうなるか?
脂肪は固まり血液の粘度が高まって流れにくくなります。肉料理を食べた後の赤血球の顕微鏡写真が掲載されていますが、正常時の中央部がくぼんでいるのとは明らかに違い、ベタベタとくっつきあっている姿がうつしだされています。とりすぎれば動脈硬化につながっていきます。
この写真を見ただけでも、動物性脂肪はちと控えておこうかとなりますな。
赤血球は大きな細胞なので、細かい末梢の血管を通るときは形を変化させてすり抜けなくてはならないのだから、くっつきあって団子になっていてはとても細い血管に入れない。そのために、細胞全体の酸素の供給量が30%ほど落ち込むことも珍しくないと報告されている。脂っこい肉料理を食べたあとに、ぐったりして活力がなくなるのはそのためだ。酸素が送られないということは、もちろん栄養素も送られないことを意味している。
ところで牛や豚の体の中ではなぜ脂肪は固まらないのか?
体温が39度ぐらいなので固まらない。納得です。いそいで付け加えますと、動物性脂肪と言っても、魚は違って血液の粘度を下げて流れやすくするそうです。EPAという不飽和脂肪酸によってです。
ということで、動物性脂肪と植物性脂肪という分類よりも、脂肪の構造をもとにして飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に分けて整理するということになります(本書は飽和とか不飽和も図解で分かりやすく説明する)。
飽和脂肪酸は肉類や乳製品、卵に多く含まれている脂肪酸です。不飽和脂肪酸は植物油や魚の脂に多く含まれている脂肪酸です。多くというのは、肉にも不飽和脂肪酸が含まれていますし、植物油にも飽和脂肪酸が含まれているからです。
動物の脂肪は体に悪いが植物の油は体に良い、とか、上に倣っていうと、飽和脂肪酸はなるべく避けて、不飽和脂肪酸は摂取するようにしたほうがいい、と思っている人も多いかもしれません。
たとえばワタクシも本書を読むまでリノール酸(植物油・不飽和脂肪酸)というのは体にいいのだろうぐらいに漠然と思っていました。一昔前、リノール酸入りのマーガリンは健康にいい、みたいなCMの記憶が強烈に染みついているせいか。
これ(リノール酸)が不足するれば、皮膚の障害や成長遅滞、肝臓や腎臓の変質が起こったり、感染症にかかりやすくなるといわれている。ただし、そういわれているだけで、実際にはっきりとした欠乏症が出るほどリノール酸を不足させている人はまずいない。いるとすれば、長期間脂肪抜きの点滴だけで栄養補給をしていた人や、スキム・ミルク以外与えられずに育てられた子どもくらいである。
ということで、リノール酸は必須脂肪酸(体内でつくりだすことができないので食事でとるしかない)だが、植物油で大量に採る必要もないということです。大量にとっても問題がなければいいが、そうではない。不飽和脂肪酸は活性酸素に狙われやすく過酸化脂質(腐った油)になりやすいという話になっていきます。活性酸素の害はよく知られるところです。
ともあれ、動物性、植物性を問わず脂肪の摂取を減らす方向に、つまり総脂肪の摂取を抑える方向に食事を切り替えていかなくてはならない、と著者は強く訴えます。
脂肪とミネラルの続編
本書でも脂肪の話は4割ほどを占め、脂肪の一種であるコレステロールは大事な役割も持っていることや、レシチンは乳化剤としての重要な働きを持っていることにも触れています。ただ、脂肪は控えろ色が強く打ち出されていました。
もっと脂肪について幅と深さをもって詳細に説明してくれるのが、5年後に発刊された『図解 豊かさの栄養学2ー健康の鍵・脂肪は正しくとろう』です。
『2』では、不飽和脂肪酸をオメガ3(魚の脂のEPAやアマニ油のα―リノレン酸など)とオメガ6(植物油のリノール酸など)に整理して、摂取のバランスが大事と強調します。1960年以降、このバランスが大きく崩れています。炒め物、揚げ物、ドレッシングだと植物油を非常に使うようになってきてからです。
なぜバランスが大事かというと、「血液を固まりにくくする」「尿を出やすくする」「血管を広げる」というような生理作用の鍵をエイコサノイドという物質が握っているらしいからです。エイコサノイドは不飽和脂肪酸を材料とします。
エイコサノイドの研究が盛んになって以来、生化学でもっとも退屈で魅力に乏しいトピックだった「脂質」は、一躍花形的存在にのし上がった。生理作用のつまみをエイコサノイドが握っているとすれば、からだのなかのさまざまなバランスやリズムが保たれるのもこわれるのも、エイコサノイド次第ということになる。つまり、健康を保つか、失うかの鍵をエイコサノイドが握っているかもしれないのだ。
『2』には、少しだけ食べ方のアドバイスもあります。不飽和脂肪酸は酸化しやすいので熱を加えない。ドレッシングにするならオメガ3のシソ油やアマニ油がいい。魚は酸化させないように工夫する。加熱には、単価不飽和脂肪酸が多く含まれているオリーブオイルかキャノーラ油、ギ―を使う。酸化しにくいと言って飽和脂肪酸のとり過ぎがよくないのは、『1』の通りです。
本書にはもう一つ続編があります。『図解 豊かさの栄養学3ー最新ミネラル読本』です。
前のほうで、タンパク質として穀類と豆類にすれば、ビタミンも含まれているので代謝がスムーズにいくと書きました。いくらタンパク質の物を食べ、炭水化物、脂肪をとっても、消化されなければ栄養にはなりません。消化にはいたるところで酵素が関わってきます。デンプンを分解するのにアミラーゼという具合にです。
酵素がうまく働いてくれないとどんなに栄養になるものがあってもダメだということです。その酵素もまたそれを機能させるのに補酵素が必要で、それをミネラルやビタミンが担っています。
『3』はミネラルの絶妙の働きがわかります。
こうした本を読むと、本当に自分(意識)の知らない間に、こんなことをやってくれているのかと不思議な感じです。感謝とともに良いものを差し入れないと。