『有機農業ハンドブック』

公開日:2021年8月22日 更新日:

ハンドブックなので有機農業分野で必要な事項を簡潔に説明し、必要な時に必要な項目を確認できるようになっていますが、よくある無機的な客観的な記述ではなく、生産者が実際の経験にもとづいて書いているので読みやすいし状況も浮かべやすいです。

『有機農業ハンドブック』(日本有機農業研究会編、農文協、1999年)
『有機農業ハンドブック』(日本有機農業研究会編、農文協、1999年)

有機栽培と自然栽培と慣行栽培

奇跡のリンゴの木村秋則さんの栽培法を説明しようとした『すごい畑のすごい土』(杉山修一・著 、幻冬舎新書)では、慣行栽培と有機栽培と自然栽培の違いをリンゴ栽培のゲームに例えて説明しています。慣行栽培は、化学肥料と合成農薬の装備を使って生産者が中心的プレーヤーとしてゲームを支配します。有機栽培は、装備をより自然な素材にするが、生産者が中心的プレーヤーとしてゲームを支配するのは同じだと説明します。これに対し、自然栽培は、プレイヤーではなく監督としてゲームに参加するという位置づけです。ゲームのプレイをリンゴ園にすむすべての生き物に任せるスタイルで、有機栽培との距離は少し離れている説明です。

一方、次回紹介しようと思っています『伝承農法を活かす家庭菜園の科学』(木嶋利男・著、講談社ブルーバックス)では、有機農法は自然農法とほぼ同じ考え方と捉えています。

どう理解すればいいのでしょうか?

さらに、前回紹介した守田志郎さんは、有機農業という言葉はあまり使わないようにしていたといいます。なぜなら、有機農業と声高に言うことは、化学肥料の農業は有機物と完全に無縁になっているかのような受け止め方になってしまうから。どれほど化学肥料だけしか使わずにやっているとしても有機物の助けを借りないとできないので、すべて有機農業のはずだと説明します。

また、余計に作物を作らないといけないとするなら、肥料や農薬の助けを借りたほうがよいこともある。大切なのは、それらを目の敵にするのではなく、自然の営みと循環をぶち壊さないように使用することであると守田さんは説きます。

一方、自然農法に対しても、それが「自然の中に身を沈めるという考え方」であるなら、それは叶わないと言います。なぜなら、人間は農耕を始めた時、自分を自然から引き離し自分だけは自然の一部ではないと宣言してしまったからです。自然の営みを、人間が軸になって上手に繰り返させていくのが農業だと明言します。人間(生産者)はプレーヤーということになります。

何が何だか分からなくなってきましたが、ざっくりと今の私なりに理解すると、化学質資材を有機質資材を置き換えるぐらいの考え方で進めると「有機栽培」は「慣行栽培」に親しい。循環を理解し踏まえながら進める「有機栽培」は「自然栽培」に親しい。

血の通ったハンドブック

本書は循環を踏まえた本格的な有機農業のハンドブックです。本格的というのは、家庭菜園をする人がターゲットではなく、ある程度広い規模の農場をやろうとする人向けです。

ハンドブックなので有機農業分野で必要な事項を簡潔に説明し、必要な時に必要な項目を確認できるようになっていますが、よくある無機的な客観的な記述ではなく、生産者が実際の経験にもとづいて書いているので読みやすいし状況も浮かべやすい感じがします。

私的には、ある程度広い規模の農場では、どういう器具を使って実際に効率化を図っているのかもわかって参考になりました。家庭菜園の本とはこの辺りは一線を画します。生産者が実際の作業風景を描写したりして何気に書いていますが、こんな器具を使っていたのか、あるのか、と感心しました。たとえば、

大豆としての収穫は11月ないし12月だ。枝を振って、カラカラ音がしたら、収穫適期と考えればよい。刈払い機に「マメラック」(スズハチ産業)という道具をつけて刈る。一回に5~6株刈ることができ、ひとまとめになる。30aの大豆の収穫が約2時間で終わる。

本書がカバーする領域も循環を踏まえているので広いです。有機農業の基本的な考え方・技術から始まり、穀物や野菜、果樹、お茶、養蜂、養蚕、畜産の代表的なものの栽培技術や飼育、収穫物の保存と加工、自然エネルギーの自給、コミュニティとのかかわり、新規就農者への心構え、といった具合です。

栽培方法はどうだったかな、と思い出して参考にするハンドブックだけにするのはもったいなく、自分の農的な生活をどう構成して充実させていこうかというときにも参考になる話が多くあります。

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執筆者:有賀知道

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