『伝承農法を活かす家庭菜園の科学』

公開日:2021年8月29日 更新日:

本書の副題は「自然のしくみを利用した栽培術」です。古くから伝わる伝承農法ということで、農薬や化学肥料も使いません。畑の耕し方から土づくり、栽培、病害虫や雑草対策、コンパニオンプランツ、種採りまで、家庭菜園に必要な知識を提供します。

『伝承農法を活かす家庭菜園の科学』(木嶋利男・著、講談社ブルーバックス、2009年)
『伝承農法を活かす家庭菜園の科学』(木嶋利男・著、講談社ブルーバックス、2009年)

野菜づくりの基礎知識

著者の本で最初に買ったのは、『コンパニオンプランツの野菜づくり』(家の光協会)ですが、まだ取り組むには早すぎました。パラパラとたまにめくってみるだけです。『伝承農法を活かす家庭菜園の科学』のほうは、基本的なことが概観しているので、今の私にも参考になりますし、というより、農作物を作ろうと思った初期の頃に読んでおけば良かったと思った本です。

案外基本的なことを知らずに、野菜の栽培に取り組みだしたものだと我ながら感心しました。

トマトやジャガイモはナス科だったのかと、カボチャはウリ科、キャベツやハクサイはアブラナ科だがレタスはキク科とか、個別の作物は何科ぐらいは見て他にどんな仲間がいるかかぐらいは確認してはいましたが、ひとまとめにしてざっくりとどんな特徴があるのかとか考えたこともありませんでした。

本書では代表的な8つの科の特徴がざっくり説明されていますが、そうだったのか、という感じです。たとえば、

  • アブラナ科野菜はほとんどが地中海沿岸原産で、秋に発芽し、冬期間に生育し、春に開花する二年草。有機質が多い肥沃な土壌を好む。
  • ユリ科とイネ科は、アンモニアに強く、未熟の有機物でも育てることができる。一方ウリ科は、アンモニアに弱く未熟な堆肥を嫌う。
  • キク科、シソ科はバンカープランツや害虫の忌避植物になる。

原産地以外の栽培では、病害虫の発生や生育不良などで生産は不安定になりやすいが、それを解決する手段として、肥料、農薬、生産資材が次々と開発され、場所や時期を選ぶことなく生産は安定して収量は増加した。というような説明をよく聞き納得するところであります。でも、日本原産の野菜と、それ以外の野菜がどこが原産地でいつの時代に渡来したものなのか、本書のように、まとめて地図や表にしてもうとわかりやすさも倍増です。

ちなみに、日本を原産地とする野菜類はミョウガやフキ、ウドなど数少なく、山菜として山採りされるものがほとんどだそうです。

家庭菜園での、雑草を刈りとったものや残渣の放置の仕方

本書の副題は「自然のしくみを利用した栽培術」です。古くから伝わる伝承農法ということで、農薬や化学肥料も使いません。畑の耕し方から土づくり、栽培、病害虫や雑草対策、コンパニオンプランツ、種採りまで、家庭菜園に必要な知識を提供します。たとえば、こんな感じです。

  • 物質循環を活性化するには、土壌微生物の働きを促進する必要がある。このため、畑は裸地にせず、植物を繁殖させることが大切。特に冬は裸地になりやすいので、麦類や豆類を緑肥として栽培したり、ヨモギやタンポポなど雑草を繁茂させる。
  • 植物(雑草も)が繁殖している畑は気温の変化が少なく、土が乾燥から守られるため、微生物の活性が高く、有機物の分解が促進される。また、微生物の働きによって、植物のない畑よりも土壌温度が高くなる。

落ち葉や、枯れ草、収穫残渣、糞尿など直接土壌に混和すると障害を発生させる恐れがあるため、通常は分解(発酵)させてから施用します。でも家庭菜園でやるのはハードルが高い。こうした有機物を未分解の状態で土壌に還元する方法に表面施用があると勧めます。

有機物の分解には酸素を必要としますので、酸素が多いと早く、少ないと遅くなります。また、微生物によって分解されますが、微生物活性は有機物が多いと高くなり、少ないと低くなります。すなわち、酸素の供給が少ない深い位置や、微生物活性の低くなる全層施用は肥効が遅く、長くなります。逆に酸素が多い土壌表面や、微生物活性が高くなるすじ状やツボ状施用は肥効が速く、短くになります。

表面にまとめておけば分解が早いというわけです。でも、未熟な有機物の大量投入はコガネムシの幼虫やネキリムシなど野菜の害虫の餌にもなり、益虫ばかりでなく、害虫を発生させ、野菜類に被害を与える場合もある、と注意も促します。

伝承農法と言われるとまっさきに私は輪作を思い浮かべましたが、輪作の基本をこう説明しています。

  1. 窒素固定能力のあるラッカセイ、ダイズなどのマメ科の後作に、吸肥力の強いキャベツやホウレンソウなどの野菜を植える。
  2. キュウリ、メロンなどの浅根野菜の後作に、深根のゴボウ、ニンジンなどの野菜を植える。
  3. トウモロコシ、ネギなど単子葉野菜の後作に、スイカ、トマトなどの双子葉野菜を植える。

1は、マメ科で土を豊かにして次作で利用する考えで、2,3は前作で利用できなかった養分を次作で利用するとの考え方です。

タイトルに科学が入っているように、なぜそうやるのかと、やってきたのか、ある程度理由(と思われること)も解説しているので納得しやすいです。

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執筆者:有賀知道

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