自分で堆肥をつくって作物を栽培する人が参考にできる本です。いざ堆肥づくりを試してみて、何か問題が起こったときでも本書のどこかで解決のヒントを見つけられそうです。
堆肥化は発酵か分解か
堆肥について前々から引っかかっていたことがありました。本書を読んで少しスッキリしました。発酵と言う表現についてです。発酵食品の発酵のように腐りにくくなるようなイメージが発酵にはあったからです。堆肥のどこかで腐りにくくなっている現象がおこっているのか???
一般に、微生物の働きによりできた生産物が、私たちの生活に役立つものを「発酵」、役立たたないものを「腐敗」と呼んでいる。このため、農業生産に役立つ堆肥をつくる微生物の働きは「発酵」と呼ぶ。
しかし、学問的に厳密にいうと、この言葉は正しくない。酸素を使わない嫌気性菌の働きで物質を生産することを「発酵」というのに対し、酸素を使って有機物を分解する好気性菌の働きは「分解」というからである。
堆肥化には、一部には嫌気性菌も働くが、大部分が好気性菌の働きで、有機物を二酸化炭素と水に分解しながらすすんでいく。嫌気的な条件で堆肥つくりをすると、黄色がかかった色になり悪臭が発生し「腐敗」状態になる。このため、厳密には堆肥つくりに「発酵」を用いるのは好ましくなく、「分解」を用いるのが正しい
これを読んだときは超スッキリしたのですが、その後、主に食の世界での発酵やら微生物の動きやらを知って、また少しモヤモヤしています。これは一度、微生物の基本的なことを知るのが良さそうです。微生物の入門書を何冊か買い込んできたので、それでいずれ頭の中を整理させてスッキリしたらまた報告します。
それはさておき急いで付け加えますと、本書は学術書ではありません。あくまで実際に堆肥をつくって作物を栽培する人が参考になるような構成になっています。
堆肥化は微生物の活動しやすい環境を整えること
堆肥化は微生物の活動によるもので良好な堆肥化を行うためには微生物の活動しやすい環境を整えることが重要であるとして、含水率と炭素率、通気量を主な要因として挙げています。適した水分率は50~60%、最適な炭素率は20~30です。炭素率つについては以前紹介した『有機農業ハンドブック』の中で「土づくりと肥料」を担当している金子美登さんは、25~40ぐらいとしています。
もっとも、それぞれの原料の含水率と炭素率の目安がないと、この範囲に調整していくことはできません。本書では主な原料について巻末の「堆肥原料と成分量」で分かるようになっています。家畜ふん、ワラなど植物質、剪定くずなど木質、生ゴミや茶かす・米ぬかなど食品カスが載っています。含水率と炭素率だけでなく、窒素、リン酸、カリ、カルシウム、マグネシウムの量もわかるようになっています。
成分量がわかれば、どれとどれをどのくらい混ぜ合わせると、水分量が60%になるのか計算できます。炭素率を30%にする計算もできます。
もっとも、どんな原料を調達できるのか使いたいのかはそれぞれなので、「堆肥原料の特性とつくり方、使い方のポイント」を見ながら整理し、栽培作物は何かを踏まえて「作物別堆肥の施用方法」を参照して、どういう原料を混ぜ合わせるかの計算になると思います。
さらに本書では、「堆肥と肥料は相互に補うように使う」「堆肥の肥料成分量も組み込んだ利用が大切」ということで「堆肥の成分量を含めた作物別施肥設計例」まで提示してくれます。
これにて心置きなく堆肥づくりを試せます。最初からスムーズにいくとは思ってませんが、本書には「堆肥つくりの失敗事例」もあるので安心です。この事例にあてはまらなくても、何か問題が起こったとき本書のどこかで解決のヒントを見つけられそうです。