23の利益モデル
売上げはどのようにして生まれるか? は案外答えやすいかもしれません。モデルも描きやすいです。物販モデル、小売りモデル、広告モデル、ライセンスモデル、課金モデル・・・などなど直感的に理解もしやすい。
しかし、利益はどのようにして生まれるのか? は複雑です。値段の付け方も関係しますし、お金をどこに使ったか、その質まで問われることになるからです。関係する要因もいくらでも挙げられる気もします。外部からはうかがい知れないですし、内部でもどれくらいの人が把握しているかはわかりません。人によって解釈の違いもあります。
利益が生まれる道筋に一つとして他と同じものはなかった。分析するうえで重要なのは、企業の固有性を形作るさまざまなディテールを理解することだ。
もっともらしい一般論を振りかざすのは簡単だが、ビジネスというものは具体的なケースで成り立っているものだ。だから、そうした具体的なケースにきっちりと当てはまる原則が必要になってくる。この30年間で私はいくつかの原則を見つけた。
師匠の言葉です。
師匠は、ビジネスで利益が生まれる仕組みを知り尽くした男です。本書は、戦略企画部門で働く青年が、週に一度、師匠の講義を受けながらビジネスマンとして成長していくというストーリー仕立てになっています。
師匠が、その時点で重要と考えている23の利益モデルを週に一つずつ伝授していきます。想像がつきにくいモデル名も多々あるので、何となく想像しやすいものを挙げてみると、「顧客ソリューション利益モデル」「スペシャリスト利益モデル」「デファクトスタンダード利益モデル」「ブランド利益モデル」「ローカル・リーダーシップ利益モデル」「取引規模利益モデル」「販売後利益モデル」といった具合です。
本田宗一郎氏とトヨタ
本書に登場する事例は、主に米国のものになっていますが、日本の1人と1社が登場します。本田宗一郎氏とトヨタです。本田宗一郎氏は「起業家利益モデル」に登場します。
ビジネスの世界では、これこそ(起業家精神)が最強の武器だ。この精神があればこそ、合理性と常識をどこかに置き忘れることなく、全社一丸となって利益の追求に邁進できる。わき道にそれて愚にもつかない事柄にかかずらわる余裕があるのは大企業だけと相場が決まっている。「こうやるしか生きていく道はない」という、実にシンプルな精神のありようだが、これこそが大きな利益を生み源なんだ。ビジネスの世界で最も難しいのは、成功した後でも起業家精神を持ち続けることだ。
トヨタは「ブランド利益モデル」と「景気循環利益モデル」に出てきます。ブランド利益モデルは、同じ製品やサービスであるにも関わらず、名前の違いだけで高い価格で提供できることにより得られる利益のことです。そんなことできるの? と思ってしまいますが、実際例が紹介されています。トヨタとGMの合弁会社NUMMIは、同じ工場、同じ労働者、同じプロセスで2つの名前を持っていました。トヨタのネームプレートを付けた乗用車はGMのものより一台あたり300ドル高い値段で売られたそうです(NUMMI社は、現在はもうありません)。
「景気循環利益モデル」は、景気循環の影響を受ける産業であるにもかかわらず、利益を上げられるモデルということです。「乾いた雑巾を絞る」と言われるように、知恵を絞りコスト削減をすることによって、トヨタは損益分岐点を引き下げました。その結果、景気が悪い状況下、他社が赤字の時でも黒字にできる。仮に同じものを同じ値段で売ったとしたら、トヨタのほうが利益が大きくなるということです。
ともあれ、本書が、ビジネスモデルを説明するものとは、まるで違うことが分かります。
ビジネスデザインの寿命が短くなってきている
トヨタは、今後も同じように自動車をつくって利益が確保できるとは思っていないでしょう。未来型都市を建設することまでやろうとする時代です。誰もが、一つのビジネスモデルや利益モデルに固執して時代遅れになるのは避けたいと思っているはずです。時代の変化はほんと目まぐるしくなってきているので、うっかりしていられません。
かつては、ビジネスデザインの寿命はかなり長く、10年、20年、ときには30年も続くことがありました。
でも今日では、5,6年が限度のようです。
本書の終盤のほう、23のうち21の利益モデルをすでに学んで、成長した弟子が師匠に語る場面があります。5,6年のうちに次の手を打つためには、先を見通す力が必要だが、取得は可能なのかという話になります。
繰り返し登場するパターンが20や30はある。それを研究して自分なりのリストを作っておけば、たいていのことには驚かなくなるだろう。以前読んだ『プロフィット・パターン』を憶えているかな?
あれをもう一度読みなさい。あの本は変化がどのように訪れるかを分析したエンサイクロペディアだ。ただし、あくまで第一巻に過ぎない。第二巻は君自身が、自分の考え方や実際に携わった仕事を通して書くんだ
(本書をあまねく理解しようとすると、本を何冊も読まされます。)
さておき、師匠は、利益とは経済のエネルギーであり、「モデルや方程式というよりも考え方」と喝破し、収益性の追求とは「高い利益がどこでどのように発生するかを常に問いかけながら、考えを日々変えていくことなんだ」と説きます。
参考図書もあわせていかがか
本書はストーリー形式なので、スラスラと読み進めることができます。しかし、深く理解するためには、著者が冒頭で勧めているように、週に1章(1講義、1利益モデル)ぐらいのペースでゆっくり読むのが良さそうです。1講義ごとに出された宿題を自分の頭で考える時間を設けるようにしてです。
たとえば、顧客ソリューション利益モデルの講義が終わった後の宿題は、「顧客ソリューション利益モデルが適用できるビジネスを検討すること。そして、その可能性をリストにすること」です。たとえ間違った答えを考えたとしても、それによって理解は深まり、記憶にも残りやすくなるかもしれません。
そして、次の講義までに読んでおくべき課題図書も与えられます。例えば、こんな感じです。
読んで欲しい本が二冊ある。これを読んで、このモデルのビジネスが実はいかに複雑かということを次回話してくれないか?
サム・ウォルトンの『ロープライス・エブリデイ』とハワード・シュルツの『スターバックス成功物語』だ。小売業者ならひとり残らず三回は読んでもおかしくない本だと思うが、なぜ誰もそうしないのか不思議だよ。
この二冊は内容は面白いが、娯楽として読んではいけない。学ぶために読むんだ。実際に、立地が勝負の典型的なローカル・リーダーシップ利益モデルを使う企業の経営者になったつもりになって考えてみなさい。
必読本は、ビジネス本だけでなく、『孫子』や『数字オンチの諸君』『アインシュタインの夢』『パラダイムの魔力』などバラエティーに富んでいます。
本書に登場する事例は、大企業の利益についてが多いですが、そんなところでも「利益が生まれるにあったっては、ひと握りの人々が途方もなく重要な役割を果たしている」と指摘しているぐらいなので、自分で決定するほかない自営業者や中小企業のサラリーマンでも為になる内容です。
利益や儲けについて話すのは、まだはばかれるような雰囲気もありますが、利益がなければ、事業を継続させられないのが現実です。