『自然農の野菜づくり』

公開日:2020年5月6日 更新日:

『自然農の野菜づくり』(川口由一・監修、高橋浩昭・著、創森社、2010年)。
『自然農の野菜づくり』(川口由一・監修、高橋浩昭・著、創森社、2010年)。

野生動物の対応に苦慮

「ここ10年間は野生動物の対応に多くのエネルギーをさかざるを得ず、農業の経営を揺さぶられ続け、その答えはなかなか見つけられません」。著者は山間部での野菜づくりをする上での一番の問題点を明らかにします。

もし、山間部で畑を借りたりして作物を作ることがあれば、害獣対策が容易なところかどうかが最も大事なことになると思います。私も家庭菜園を始めるにあたって、まず一番最初に何をやったことと言えば、シカとイノシシ対策で防護柵をつけたことです。始める場所がシカのフンだらけの状況をみて恐ろしくなったからです。ふつうは、被害にあってから柵をつけるのかもしれませんが、先手を打ちました。

ちょうどいい具合に、私の住む南牧村では柵設置には補助金が出ます(75%の補助、2019年現在)。2019年11月に柵は設置し、役所への申請はスムースでしたが、後日、役場担当者による現場確認があります。その確認が終わった後、補助金が振り込まれるという流れです。

しばらくして、役場の担当者から連絡がありました。「柵は確認しましたが、畑が確認できない」と。このまま補助金がおりて、もし畑にならなかった場合、虚偽申請になりますよ、と脅されてしまいました。畑らしくなってから、申請が動き出す流れになりました。年度末の2020年3月までにもう一度確認するということになります。

畑らしくなってから? まずい。3月には畑らしくなってないかもしれない。自然栽培でやるので草もあるだろうし、傾斜地なので、畝もたてずに平畝でやろうと思っていたからです(平畝でやろうと思ったのも本書を読んだからです)。

補助金のために、耕して畝立てして畑らしくするのも違うな、ということで、補助金が出ようが出まいが、自然栽培に向けてやるべきことをやりました。

15年以上も耕作が放棄されたところで、イネ科の根がすごかったので、それらは、2月に入ってから何回かにわけてスコップや鎌を使って根を断ち切り草取りもしておきました。取った草はその場に置いておきます。作付けプランをつくってそれに基づいて区画も作っておきました。

2020年3月末、ジャガイモの種イモを植え終えた頃、役場の担当者から連絡がありました。畑になりましたか、と。・・・・・。

補助金は出してもらえました。(しぶしぶかもしれませんが)畑として認められたようです。おそらく10年前なら認められなかったかもしれません。草を排除せず耕さない栽培法が広く知られるようになってきたということでもあります。監修者の川口さんや著者の高橋さんなどが実践する自然農や、奇跡のリンゴの木村秋則さんの自然栽培のおかげです。

栽培計画にもとづき栽培区画をつくる。耕作放棄地を家庭菜園にする準備をする。

3月末の畑の状態。何とか補助金がおりました。

自然農とは

自然農のほか、自然栽培や自然農法、天然農法など、さまざまな種類があり、それぞれやり方は少しずつ違うようですが、無農薬と基本的に無肥料で、状況をよく観察しながら、自然界(生物)の力を活かして作物を育てていくということでは同じ括りだと思います。耕すかどうか、草とどう向き合うかのところで、幅があるようです。

「自然農」は、監修者の川口由一さんによって名付けられ40年あまりがたっています。「耕さない」「肥料・農薬を持ち込まない」「草や虫を敵としない」を原則としています。

川口さんは、もっとも大切なのは「耕さない」ことだとしています。本書ではないですが、違うところで下記のように語っています。

自然界の土の上には無数の亡骸の層があり、その上で多くの生命が営まれています。一方、“耕す”という行為は、今生きている動植物の命を奪います。つまり、耕すことで、多くの生物は殺され、生物が生きる舞台である亡骸の層も、存在し得なくなり、生命たちの歴史が存在しなくなるのです。むき出しの土は太陽にさらされ、雨にうたれ半砂漠化し、不毛の地となります。
耕した土は、いわば“死の世界”。耕さない土は”豊穣の世界”。そのぐらい差があるのです。

『家庭菜園でできる自然農法』

一方、草とどう向き合うかについては、本書の中で著者はこう述べます。

一般的な畑では草が生えてくると作物に与えた肥料が草に取られてしまうという敵対、対立の関係を栽培のあり方で創り出しています。

しかし、自然農では、肥料が作物を育てるのではなく、草をはじめ過去のいのちの積み重なりが次のいのちの糧となり、育つ舞台になると考えます。なので、一般的な農業は草を取り除くことから始まるが、自然農では草を生やすことから始まると説明します。

作物とともにいかに多くの草を育てることができるかが畑の肥沃化、地力の維持、回復につながります。

ただ、栽培としては作物を育て、実りをいただくことが目的です。草は畑になくてはならないものですが、作物との関係で作物がとくに幼いとき、負けてしまいそうなとき、風通し、日当たりをよくしたいとき、そのような場面で草を倒したり、刈ったり一時的に草の勢いを抑え、少しの間、草に待ってもらうのが自然農での草とのつきあい方と言えると思います。

「耕さない」「肥料・農薬を用いない」「草や虫を敵としない」は、これまでの慣行栽培とはまったく逆の考え方です。これで栽培ができれば、身体に良さそうな作物ができそうですし、労力もコストもそれほどかかりそうにないです。道具も大規模なものは必要なく、始めるときには鎌と鍬、スコップぐらい、栽培が始まっても移植ごて、鋏ぐらいです。

こんな良さそうなことばかりなら、やらない手はないという感じです。

状況を大きく変えないで、状況に合わせる

もっとも難点はあります。自然農などは、「状況をよく観察しながら、自然界(生物)の力を活かして作物を育てていくということ」です。自然状況はさまざまなので、それを観察した上で対処しないといけません。これができないとうまく作物ができてこないということになります。

これを面白がれるのか、やりがいを感じられるのか、喜びを感じられるのか、それとも作物が手に入ればいいだけなので面倒くさい、非効率と感じるのか。

自然状況と関係なく、どのような状況でもうまくやろうとすれば、農薬と肥料と草刈りで管理するというのが一番効率的です。

本書でも、具体的な作物別に野菜づくりのポイントをまとめてくれていますが、その前提として、状況はそれぞれ違うので、それをよく観察して対処することを強調します。例えば作物の選び方について。

基本的に草を選ばず生えてきた草の中で草とともに栽培します。
草自体に良い悪いはなく、由あって存在し、その草の姿、種類がそのときの畑の状態を物語っています。つくり手が草を選別するのではなく、その状態を表している草々を読み取って、そこで育てる作物を選び、手を貸していきます。

状況を積極的に変えていこうとはしません。すでにある状況に合わせていく、それを踏まえてどうしていくのかという発想です。それでも状況を変えざるを得ないときは、細心の注意を払ってです。例えばジャガイモ栽培の項目のところの草抑えの説明では。

草に覆われてしまうようであれば、日当たり、風通しを考え、株周りの草を刈ります。一度に行わず、条間一列おきにするなどして残すところ、刈るところを決めておこないます。一度におこなって環境を大きく変えないようにするのは、作物やそのまわりに生息する生物に対する配慮でもあります。
一度に草刈りをしてしまうと乾燥がすすんだり、日焼けしたり、虫のバランスを壊してしまうことにもつながります。作業をしていく中で草抑えのタイミング、仕方を身につけていきます。作業をすることで自然や作物に自分が働きかけたことがどういうふうになっていくか観察してみてください。

耕作放棄地は畑に適している場合が多い

私が耕作放棄地で畑の準備をした時には、この環境を大きく変えないようにを念頭において、時間をかけながらやりました。そして、私が耕作放棄地を、というよりも耕作放棄地だからこそ家庭菜園にしようと思ったのも、著者の指摘に大きくうなずいたからです。

農業従事者の高齢化、後継者不足、現在農業のおかれている状況から年々耕作放棄地が増えています。また、一方で農家ではない方々が家庭菜園、自給農園に数多く取り組まれています。わたしもそうでしたが、耕作放棄地で始める方も多いのではないでしょうか。いったん耕作を放棄し、草が生えた畑を元の状態に戻すためには並大抵でない労力が必要で、社会的にも大きな損失と思われています。しかしながら、その畑の状態は自然農を始めるにあたっては何ら問題のない、逆に適している場合が多いのです。自然農という栽培の仕方を手にしたならば、荒れたと思われた畑は少しの手が入るだけでとても豊かな畑に生まれ変わります。

耕作放棄地を使って家庭菜園をやろうとする人にとって、これほど敷居を下げてくれて一歩を踏み出させてくれる言葉もないでしょう。

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執筆者:有賀知道

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