起業家になれるかは資質で決まるか?
田舎での自営のあり方については、サイト上でこれからどんどん内容を濃くしていく予定です。田舎の自営での仕事は、農業ぐらいしか選択肢がないというわけでもありません。「仕事を移す」「仕事を創る」「仕事を引き継ぐ」という視点で見れば展望も開けると思っています。
この3つの中でやはり、難易度が高いのは、仕事を創るということになるでしょう。一般的な言葉で言えば起業ということになります。本書において著者は、起業において忘れるべき3つの神話があると指摘しています。
- 起業は一人で行うものだ、という誤解。
- 起業家はみなカリスマ性を備え、それが成功のカギとなっているという誤解。
- 起業家になれるかどうかは生まれ持った資質によるもので、成功は遺伝子によって決まる、という誤解。
これらが誤解であることを、マサチューセッツ工科大学(MIT)の学生が次々に起業していることを例にとって説明します。著者は、MITで起業について教える人気講師です。
その数は、2006年時点で継続しているだけでも2万5000社、毎年900社にのぼる新会社が設立されていて、300万人の雇用を生み出し、年間の総売上は2兆ドルにのぼります。MIT卒業生が設立した事業を総計すると、世界第11位の経済圏になるというから驚きです。
MITの卒業生が成功している理由を、「精神とスキル両面の刺激」と指摘しています。資質とは言っていません。本書のような24ステップを学び、学生同士、学生と先生、学生と卒業生で刺激し合うような環境になれば、「自分にも事業を興せる。新たなビジネスを始めるのは素晴らしいことだ」と思ってしまう「起業家のウイルス」に感染してしまうのだ、と。
田舎ではもっと深刻に、刺激が必要というのは当てはまります。今後、田舎で起業がしやすくなるようにするには、刺激し合う場をどう作っていくのかがカギになってくるかもしれません。
起業の成功確率を高めるための本
本書は、新しいビジネスの成功確率を高めるため、より効率的に行動できるように24のステップに整理しフレームワークを提示してくれます。日本語序文を書いた伊藤穣一氏(MITメディアラボ所長・当時)によると本書の位置づけはこうです。
起業する際に、すべての人や企業に万能な仕組みやシステムは存在しません。しかし、その成功確率を高める方法が、徐々に解明されつつあるのです。近年、起業家精神に関する研究は大きな進展を遂げ、誇らしことにマサチューセッツ工科大学(MIT)がその動きの最前線にいます。発展しつつあるその知識を、誰もが手に入れられるようすばらしい1冊にまとめたのが本書です。
本書の出発点は、ビジネスに唯一の必要十分条件は「代金を払ってくれる顧客」、これです。
とすると、事業をする側として一番先にやらないといけないのは、顧客が代金を支払ってでも解決したい、と思う問題が何かを知るということになります。
ただ、最初からこればかりになると、事業を始めようとする人の個性が活きてきません。著者はまず、「長期間かけてやってみたいことで、得意なものはなんだろう?」と質問することから始めることを勧めます。
この質問に答えることが、顧客の痛みを知る最初の一歩となります。関心を持ち、得意としている分野だからこそ、その痛みをなんとかしたい、と思えるのではと捕捉します。
自分自身のために役立てようとしたアイデアや技術が、ほかの多くの人にとっても大きな助けになることがよくあります。いわゆる「ユーザー起業家」と呼ばれる人たちはそうして誕生しているのです。米国カウフマン財団にの調査によると、設立5年以内の新規事業のうち半数近くが、「ユーザー起業家」によって始まったものです。
もちろん、自分がユーザーであったとしても調査は必要です。この調査なくして、代金を支払ってくれる顧客に効率的にたどり着くことはできません。
市場の一次調査を徹底的に行うこと
著者が成功の基礎と位置付けているのが一次調査です。調査結果は今後得られる情報の中でもっとも貴重かもしれないとさえ言っています。 新市場を創出するには、市場の一次調査を徹底的に行うことで顧客を特定し、その特徴を理解しなければならなりません。
1次調査では、潜在顧客と直接やり取りし、彼らの状況、悩み、ビジネスチャンス、市場に関する情報をできるだけ多く集めましょう。このプロセスに近道はありません。顧客や市場については事前にできる限り多くを把握すべきですが、顧客に直接、話を聞くことは何より重要です。他の情報源や知識はたいていが表面的で、ほとんど価値がないと思いましょう。
この重要なステップに時間を費やす忍耐力が大事で、注意点として3つを挙げます。
- 潜在顧客について、あるいは彼らのニーズについての「答え」を用意しない。
- 潜在顧客はあなたが求める「答え」を持っているわけではない。
- 潜在顧客と会うのは話を聞くためで、主張や売り込みをするためではない。彼らが言うことに耳を傾け、こちらから売り込みはしない。
調査の目的は、顧客の痛みを理解し、それを解決する価値ある製品をのちに提供することだからです。
「見込み顧客と接触したり、市場の一次調査をしたりする行動に重点を置くことを忘れないでください」と本書のいたるところで何度も口を酸っぱくして繰り返します。本当の答えは、本書ではなく満たされないニーズを抱えた顧客とその市場こそが持っている、と説きます。
ペルソナをつくる
初めて起業する人は、必ずと言っていいほど市場機会を捨てることができず、「つらい」とさえ言います。市場機会は多ければ多いほど成功率が高くなり、どれかひとつがうまくいくまでは、あちこちに賭けておくべきだという考えにとらわれているのです。
実際は、その考え方が成功確率を低くします。新事業を成功させるには、絞り込みが不可欠です。成功のカギは、市場を選ぶ能力と、それ以外の市場をきっぱりと捨て去る意志です。
調査をへて顧客を特定し、潜在顧客像であるペルソナを作るステップにまでなれば、否応なく絞り込まざるをえなくなります。ペルソナは、市場の主要顧客を代表する個人です。マーケティングの経験がある人なら馴染みのある概念かもしれません。知らない人なら、そこまで具体的に設定してもいいのと心配になるぐらいの作業です。でも仮説としてターゲット顧客が具体化される効果は大きいです。
ペルソナを理解するうえで重要なのは、購入基準となる優先順位である。顧客と、顧客を動かす誘引について正確に理解しなければならない。顧客が理性だけでなく、感情的にも、社会的にも動かずにいられない要因は何か。ペルソナのニーズ、行動、動機をよく理解できれば、製品と、それを提供する新しい事業は、より大きな成功を収められるだろう。ペルソナのイメージとファクトシートができたら、オフィス内で常に目に入るところに掲げておく。そうすれば、スタッフ全員が同じ共通の目標に向かって進んでいける。
もっとも、ペルソナは一回作って終わりではありません。ペルソナが間違った方向になっていないか、見込み客10人を見つけて調査するステップもあります。
この調査の結果、ペルソナに修正を迫る場合もあるかもしれません。
事業のスタートアップでは、製品やサービスはまだ存在していません。調査と論理にもとづいて仮説を立てるほかありません。
予想通りの結果が出なかったとしても、希望をもとにした欠陥だらけの計画を進めないように注意を促します。こうした結果にどう対処するかが成功のカギで、仮説を検証し、見込み顧客から学ぶ姿勢が第一と強調します。
「代金を払ってくれる顧客」
ペルソナによって顧客像をイメージできたら、顧客にどのような価値を提供できるか、顧客は製品をどのようにして手に入れるか、顧客の獲得にいくらかかるか、顧客がどの程度の利益をもたらしてくれるか、どのように製品を設計するか、どのように事業を拡大するのか、といったステップが待ち受けています。
たしかに本書をきちんと理解し実践していけば、起業の成功確率がそうとう高まる感じはします(ついでの感想で言うと、投資家をうならせるようなものが書ける気もします )。それは、「代金を払ってくれる顧客」を中心に考えられているからでしょう。
事業のスタートアップ時には、みんな顧客を見ていたのが、事業が拡大されたり時が経つにつれ、いつのまにか惰性で事業をやっているだけで顧客を見なくなっているところも少なくありません。あまりにも顧客を見ないと市場から退場させられることにもなりましょう。
逆に、顧客を見るのは良いにしても、少数の特異なクレームにばかり過剰に反応する体質になってしまっているところもあるでしょう。
ともあれ、「代金を払ってくれる顧客」を中心に考えられれば、この時代、いたるところで参入できる余地はありそうです。
ちなみに、当サイトが支援している、「ひまわり高齢者レク支援センター」の起業においても、大いに本書を参考にさせてもらっています。