『山猿流自給自足』

公開日:2020年4月11日 更新日:

『山猿流自給自足』(青木慧・著、創元社、2005年)。
『山猿流自給自足』(青木慧・著、創元社、2005年)。思想がある自給自足本です。

生活と仕事が一体

テレビ番組などで、自給自足をしているという人に「現金収入はどうやって得ているのですか?」みたいな質問をよくしています。人によって答えは様々ですが、やはり、なにがしか稼ぐ手段が他にある場合が多いようです。

著者が、他の自給自足を実践している人と違うのは、生活と仕事が一体化しているところです。自給自足の生活を深めていくこと自体が仕事になっています。なぜなら、著者の本職はジャーナリストだからです。自らの生活自体を取材対象にしています。

取材対象なので、生ぬるい生活だと、取材者として厳しい突っ込みが入ることになります。それなので、取り組み方も半端ではありません。

自給自足の範囲は、地元の木を自ら伐採しての自作の家づくり、家具づくり、農作物、養鶏、魚の養殖の範囲にまで及びます。本書は、著者が60歳をまじかにして生まれ故郷の丹波に戻って、自給自足の生活をした1995年から2005年までの10年間の軌跡です。

私がこれまで読んだ自給自足系の本の中では、もっとも面白く、ためになる本です。

本書と重複するところがありますが、著者が自給自足生活に入ってから書いた、『自然に学ぶ丹波山猿塾』青木書店・1995年、『やったぜ!わが家を自力建築――毒漬け住宅に住めるか』汐文社・1997年、『ゼロからの山里暮らし』あすなろ社・1999年もお薦めです。

自然に即した暮らしに転換

本書は、仕事として取り組んでいる以上に使命感のようなものが感じられ、少し息苦しさも付きまといます。自分が先陣をきって社会変革としての、自給自足生活の実物見本をつくっていく、というものです。

社会変革? この使命感には好き嫌いがあるでしょうが、こう言えて、なおかつ説得力があるところが、著者のすごいところです。

それは、著者が自給自足を始める前の、ジャーナリストとして取り組んでいたテーマと関係があります(と言っても、私もこの本を読むまで、著者を知りませんでした)。

『トヨタその実像』『金融大企業の背信――財テク・マジックをあばく』『KKニッポン労連』『ルポルタージュ ゴミ――地球は大企業文明の墓場か』『いつまでも食えると思うな――農業と食料・現場からの警告』など、大企業や労使問題、環境問題、農業問題などをテーマに執筆活動を行い、その中で大企業中心の社会を批判しています。

世界企業は、安上がりに地球資源を使った世界製品で、世界中に資源をばらまき、地球環境破壊の元凶になっている。その実際を告発し、産業経済や暮らしは、その土地の資源を使ってその土地に戻し、自然の流れに沿う方向へ、転換していくべきだと主張してきた。
30冊近い著書を発表してきたが、書くだけではあきたらなくなった。理屈は明白でも、なかなか事が始まらない現実にいらだっていた。ならば、自らが自然に即した暮らしに転換し、実地に体験した結果を書いていこうと決断した。

自分の独りよがりではなく、自然の流れを広く社会の流れにしていこうと、山猿塾を主宰しました。主宰と言っても塾長ではなく、塾生としてです。先生はあくまで自然です。

塾によってビジネスをしようとしていたのではなく、本職はあくまでジャーナリストであったので、会員制度も会費制どもありませんでした。

10年間に塾への参加者、見学者、見物人がどれくらいになったか数えてなかったようですが、1999年1月に出版された『ゼロからの山里暮らし』には、開塾以来のべ1000人は軽く超えている、と書いています。おそらく今も、自給自足的な暮らしを実践している塾生が各地にいるのではないでしょうか。

次の10年を構想しつつ完全燃焼で生き抜こうと語っていましたが、2008年、著者は亡くなくなりました。現在は山猿塾はありません。

一番大事なのは観察

自然に即した暮らしを築くのに大事なことが観察だと著者は言います。家を創るのも、農作物、養鶏、魚の養殖、家の周りに出没する動物などなど、観察を基礎におきます。例えば、家を建てる場所、建てる向き、構造を「ロ」の字の構造にしたのも、太陽の出方、風の強さや方向を観察し、通気、採光を踏まえてのことです。

この種のまき方をすると、こうなるとか、ここにこれを植えるとどうなるか、この肥料を使うとどうなるか、このエサを鶏に与えるとどうなるか、この魚をこれと一緒に養殖するとどうなるか・・・それを観察し、その結果を踏まえて次につなげます。

著者の場合、ある日突然、丹波の大自然の中に入っていって家を建てたりしたわけです。そうすると、それまでの、自然のバランスが崩れます。新たなバランスがつくられていくことになりますが、その様子をよく観察していって、その中にうまく入り込んで存在を確保しなければなりません。しかも自然な形で。

バランスと言うと奥ゆかしい感じがしますし、著者の言葉を借りれば、共存とか棲み分けということになります。しかし、そんな甘いものでもなく、その過程は戦いでもあります。

ここのエリアは、われわれの領域ですよ、と動物に認識してもらわないといけません。

動物から畑を守ることに始まり、鶏がイタチや蛇にやられないようにしたり、養殖魚が鳥に狙われれないように対策しないといけません。それでも入ってきたものには力づくで追い返したり、仕留めます。それもしつこく粘り強く。

そうして、動物の情報網で、あそこに手を出すとダメ、みたいなところまでもっていくわけです。例えば、マムシを見つけたら必ず仕留めて(そして焼酎漬けに)、5年目にはトグロも巻かずに著者を見かけたら逃げるようになったと言っています。

やっかいなことに、動物を追い返したり仕留めたりすることで、バランスが変わります。例えば、動物から畑を守るために柵をつくって、動物の出入りをできなくしたのはいいが、今度は、動物にとりついていたノミが行き所がなくなって、飼い犬に集中してしまって毛が抜けるほどの状態になってしまいます。でも、鶏を飼うようになったら、ノミをどんどんつついて食べてくれたので、治る、という話が出てきます。

面白い連鎖です。よくよく観察していないと見えてきません。

循環生産で自給自足を

「その土地の資源を使ってその土地に戻し、自然の流れに沿う方向へ、転換していくべきだ」と主張するだけでなく、見本になるように実際に10年間にわたって行動で示しました。自分だけがうまくいけばいいというような自給自足ではないこともポイントです。バランス感覚があります。

わが家、山猿塾では、自然の物の流れ、物質循環に乗り、飼料は屑米以外は自給しており、肥料は100パーセント自給している。鶏は雑草でもなんでも片付けてくれ、鶏卵や鶏肉に代えてくれる。鶏に限らないが、動物を飼うと物の流れが豊かになる。ただし、利用している土地が家畜の糞尿の分解能力を超えるような大量飼育は、家畜公害を起こしかねない。

輸入農作物も同様だが、植物資源を輸入するということは、輸出国の土地の養分を持ち込むことでもある。さらに、植物が炭素同化作用で固定化した大気の炭素を持ち込むということでもある。これらは、いずれは日本の待機や水、土地に浸透していく。日本の国土や河川、さらに海の富栄養化を進行させている。反対に、輸出国では国土が疲弊する。
だから、私は外材は使わない。日本人の民族主義の立場からではなく、地球規模で考えて、足元から実行していく考えからである。食料や木材を使った建物や家具、道具の自作自給にこだわってきたのも、この考えからだった。

鶏に限らず農作物なども経済原理で育てられてきたが、もっと自然の原理にもとづいて生き物本来の本性や生命力を活用した方が、意外に省エネや省力になり、資源効率や経済効率もいいかもしれない。とくに自給自足の少羽数飼育では、この可能性は高い。

こうしたブレない考えがあるので安定感は抜群です。

「人間はやってみればけっこうできる」

もちろん、使命感だけの苦しい10年間というわけではありません。「山猿種の鶏卵や鶏肉ほどうまいのを食べたことがない」という充実した食生活や、自分で快適な住空間をつくったということもあるでしょう。

おそらく、10年続けられた一番は、体の調子が良くなっていったことかもしれません。

「自然の流れに反していたのは、世界企業ばかりではなく私自身もそうだった」と言っているように、パソコンのキーボードを打ちすぎで腕を痛めます。腕でペンさえ持てなくなります。

身体の使い方のバランスが取れていないと考えた著者は、身体全体を使う労働にシフトしたいと考えます。これも丹波で自給自足の生活をするきっかけになります。家づくりをはじめ、そのための木材の切り出しなど、身体全体を使う労働に励みます。スポーツ労働と名付けて、「心身の全機能をバランスよく使えば快適に働ける」と喜び、体の調子が良くなっていく様子がわかります。

さて、自給自足に関心があって本書を読んだ人でも、面白かった、でも自分にはできそうにないな、という人が大半かもしれません。

10年を経て、「人間はやってみればけっこうできるものだ」が著者の感想です。

自力で自宅を建てるにしても、勝負は根気であり、結論は急がないというのが成功の鍵になってくる。

農作業もせっかちな独断は禁物だ。やれることからやってみて、うまくいくことも失敗することもある。今年はうまくいったからといって、来年もうまくいくとはかぎらない。なにしろ、お相手は大自然さまである。これも、失敗しても成功しても、つづけていく根気が勝負である。特効薬はない。

私は、農作物の次は、古民家を手に入れて改造、そして、養鶏、魚の養殖へ、みたいなイメージがチラついています。

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執筆者:有賀知道

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